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東京地方裁判所 平成6年(ワ)19267号 判決 1999年3月30日

主文

一  原告甲野太郎に対し、

1  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して金一六三五万一〇九〇円及び内金一四八七万一〇九〇円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して金二四〇三万一九一〇円及び内金二一八五万一九一〇円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

3  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告千代田生命保険相互会社は、連帯して金二四六八万〇八二一円及び内金二二四四万〇八二一円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

4  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告三井生命保険相互会社は、連帯して金九〇四万一五七六円及び内金八二二万一五七六円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

5  被告乙山松夫及び被告明治生命保険相互会社は、連帯して金七八六万三七八七円及び内金七一五万三七八七円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

6  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告住友生命保険相互会社は、連帯して金六八四万〇〇一三円及び内金六二二万〇〇一三円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

二  原告甲野花子に対し、

1  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して金六〇一万三八〇二円及び内金五四七万三八〇二円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して金八九四万五八六〇円及び内金八一三万五八六〇円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

三  原告甲野企業株式会社に対し、

1  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して金三八八万六七三八円及び内金三五三万六七三八円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して金六五五万二八一八円及び内金五九六万二八一八円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

3  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告三井生命保険相互会社は、連帯して金五四四万二九五九円及び内金四九五万二九五九円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

4  被告乙山松夫及び被告明治生命保険相互会社は、連帯して金六六〇万八三一三円及び内金六〇〇万八三一三円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

5  被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告住友生命保険相互会社は、連帯して金五一八万二七一七円及び内金四七一万二七一七円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

四  原告らの被告株式会社富士銀行に対する請求及びその他の各被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告らと被告株式会社富士銀行及び被告三井生命保険相互会社を除くその他の各被告らそれぞれとの間においては、いずれも、原告らに生じた費用の四五分の一を当該被告の負担とし、当該被告それぞれに生じた費用の五分の四を原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告三井生命保険相互会社との間においては、原告らに生じた費用の一〇分の一を同被告の負担とし、同被告に生じた費用の一〇分の九を原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告株式会社富士銀行との間においては、全部原告らの負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  原告らの請求

(不法行為に基づく損害賠償請求として)

一 原告甲野太郎に対し、

1 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して、金六〇一三万一八七三円及び内金五七二七万一八七三円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

2 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して、金一億四五六二万一七八三円及び内金一億三八六九万一七八三円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

3 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び千代田生命保険相互会社は、連帯して、金一億〇六四四万二八〇一円及び内金一億〇一三八万二八〇一円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

4 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告三井生命保険相互会社は、連帯して、金六七二一万六三九四円及び内金六四〇一万六三九四円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

5 被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告明治生命保険相互会社は、連帯して、金四三七二万二七五五円及び内金四一六四万二七五五円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

6 被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告住友生命保険相互会社は、連帯して、金二六四八万四二五一円及び内金二五二二万四二五一円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

二 原告甲野花子に対し、

1 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して、金一九七七万三五一九円及び内金一八八三万三五一九円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

2 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して、金四九六一万一七五五円及び内金四七二五万一七五五円に対する平成六年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

三 原告甲野企業株式会社に対し、

1 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告朝日生命保険相互会社は、連帯して、金一三三一万三九八八円及び内金一二六八万三九八八円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

2 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告ニコス生命保険株式会社は、連帯して、金四〇〇八万三五一九円及び内金三八一八万三五一九円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

3 株式会社富士銀行、被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告三井生命保険相互会社は、連帯して、金三八一八万〇四二三円及び内金三六三七万〇四二三円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

4 被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告明治生命保険相互会社は、連帯して、金三四四五万五七九九円及び内金三二八一万五七九九円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

5 被告乙山松夫、被告丙川竹夫及び被告住友生命保険相互会社は、連帯して、金二〇八一万四九七七円及び内金一九八二万四九七七円に対する平成五年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

を支払え。

(不当利得に基づく返還請求として)

一 被告株式会社富士銀行は、

1 原告甲野太郎に対し、金一億九〇六三万二八八九円

2 原告甲野花子に対し、金三四五二万三五六六円

及び右各金員に対する平成六年一〇月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二 被告朝日生命保険相互会社は、

1 原告甲野太郎に対し、金二五七三万五四七三円

2 原告甲野花子に対し、金八八六万八九六八円

3 原告甲野企業株式会社に対し、金六三二万五〇四五円

及び右各金員に対する平成元年一〇月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三 被告ニコス生命保険株式会社は、

1 原告甲野太郎に対し、金六二三二万二三三七円

2 原告甲野花子に対し、金二二二五万一七四〇円

3 原告甲野企業株式会社に対し、金一九〇四万〇六二一円

及び右各金員に対する平成元年一〇月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四 被告千代田生命保険相互会社は、原告甲野太郎に対し、金四六三〇万四六三七円及び右各金員に対する平成元年一〇月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

五 被告三井生命保険相互会社は、

1 原告甲野太郎に対し、金二八七六万六四六五円

2 原告甲野企業株式会社に対し、金一八一三万六一六七円

及び右各金員に対する平成元年一〇月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

六 被告明治生命保険相互会社は、

1 原告甲野太郎に対し、金一一八四万六九〇七円

2 原告甲野企業株式会社に対し、金一六三六万三八五一円

及び右各金員に対する平成元年一一月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

七 被告住友生命保険相互会社は、

1 原告甲野太郎に対し、金七一七万八〇三四円

2 原告甲野企業株式会社に対し、金九八八万五八七三円

及び右各金員に対する平成元年一二月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、変額保険(基本保険金合計五二億円、一時払保険料合計一七億八七四一万八〇〇〇円)をめぐる損害賠償等請求事件である。

原告らは、被告株式会社富士銀行(以下「被告銀行」という。)及び株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)から保険料相当額の金員を借入れ、被告朝日生命保険相互会社(以下「被告朝日」という。)、被告ニコス生命保険株式会社(当時の商号は、エクイタブル生命保険株式会社、平成四年四月一日、現商号に商号変更。以下「被告ニコス」という。)、被告千代田生命保険相互会社(以下「被告千代田」という。)、被告三井生命保険相互会社(以下「被告三井」という。)、被告明治生命保険相互会社(以下「被告明治」という。)及び被告住友生命保険相互会社(以下「被告住友」という。)の各生命保険会社(以下、被告生命保険会社全部を含むときは、一括して「被告生保各社」という。)に右借入金を一時払保険料として支払って、各社の変額保険(終身型)に加入した。

本件は、原告らが、被告銀行の営業担当従業員菅井博明(以下「菅井」という。)、公認会計士・税理士である被告乙山松夫(以下「被告乙山」という。)及び保険募集に関する業務を目的とする会社であるベイスインシュランスプラン株式会社(以下「ベイス」という。)の営業担当従業員であった被告丙川竹夫(以下「被告丙川」という。)から、変額保険の解約返戻金が融資の元利金を下回る事態等が生じる危険性等について十分な説明を受けず、かえって、そのような危険はないものと認識したうえ、各社の変額保険に加入し、被告銀行と融資契約を締結するに至ったことを理由として、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、融資元利合計金から支払保険料を控除した金額並に支払保険料から契約者貸付による借入金及び解約返戻金を控除した金額等の支払を請求し、選択的に、変額保険契約及び融資契約の錯誤無効に基づく不当利得返還請求として、被告銀行に対して、支払利息相当額を、被告生保各社に対して、支払保険料から契約者貸付による借入金及び解約返戻金を控除した金額の支払をそれぞれ請求した事案である。

二  前提となる事実(争いのない事実及び証拠に照らし明白な事実)

1 当事者及び関係人

(一) 原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)は、大正一二年二月一五日生であり、昭和二二年九月に丁原大学法学部を卒業後、同二三年三月ころから同年の暮れまでは厚生省に、同二四年四月からは法務省大臣官房庶務係に勤務し、同四三年三月、同庶務係長を最後に同省を退職し、その後は、原告らが所有する不動産の管理を行ってきた。

原告甲野花子(以下「原告花子」という。)は、昭和三年一〇月二九日生であって、原告太郎の妻である。

原告夫妻には、長男甲野一郎、長女戊田春子及び次男甲野二郎の三人の子供がいる。

原告甲野企業株式会社(以下「原告甲野企業」という。)は、原告太郎が昭和四八年一〇月二九日、原告らの所有不動産の管理等を行うことを目的として設立した会社であり、原告太郎が代表取締役を、原告花子が取締役を各務めている。

後記の本件融資契約及び本件変額保険契約に関する説明等は、原告花子及び原告甲野企業の関係においてもすべて原告太郎に対してされ、これを前提として各契約が締結された。

(二) 被告乙山は、公認会計士・税理士であり、昭和六〇年から乙山会計事務所として独立開業した。現在の事務所の陣容は、公認会計士六名、税理士七名である。

ベイスは、昭和六二年二月に設立された保険募集に関する業務等を目的とする会社であり、アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(以下「アリコ」という。)の日本における保険代理店となっていた。

被告丙川は、平成元年当時、ベイスの営業担当課長であって、生命保険の募集資格及びアリコの変額保険販売資格を有していた。

菅井は、平成元年当時、被告銀行池袋支店に勤務していた営業社員である。

(三) 平成元年当時、次の被告生保各社の保険外務員等として、後記各変額保険契約に関与した者は、次のとおりである(以下、単に「被告〇〇担当者」という。)

被告千代田 山口浩

被告三井 真壁和子

被告ニコス 小山康之

被告明治 岡崎伊三郎(ただし、被告明治が保険募集の業務委託をしている株式会社明治生命保険代理社の社員)

被告住友 竹内文子

2 変額保険契約及び融資契約の締結

(一) 被告銀行は、平成元年一〇月二日、変額保険料支払を使途として、原告太郎に対し、九億七一五五万一〇〇〇円、原告花子に対し、一億七七二六万四〇〇〇円、原告甲野企業に対し、三億三六一〇万円を貸し渡し(各弁済期・平成六年九月三〇日、利息・年五・八パーセント、毎月末日後払、以下「本件融資契約」という。)、また、同日、原告太郎及び原告花子との間で本件融資による貸金に対する利息支払のための当座貸越契約(貸越極度額・原告太郎につき二億五〇〇〇万円、原告花子につき五〇〇〇万円)を締結し、更に、これらの債務を担保するため、原告太郎、原告花子共有又は原告太郎単独所有の不動産につき根抵当権設定契約(極度額、原告太郎につき一八億八〇〇〇万円、原告花子につき三億五〇〇〇万円)を締結した(同年一一月一四日設定登記)。

(二) 原告らは、被告朝日、被告ニコス、被告千代田及び被告三井に対し、それぞれ変額保険契約(終身型)の締結の申込をし、平成元年一〇月二日、右各生命保険会社に対し、被告銀行からの前記借入金をもって、各一時払保険料を支払った。

原告らと各生命保険会社との間で成立した各変額保険契約(契約日付は、同年一一月一日である。)の内容(保険契約者、被保険者、基本保険金額、一時払保険料額)は、別紙1保険契約目録各該当欄記載のとおりである(以下「本件変額保険契約」という。)。

また、原告太郎は、前記借入金から、右保険料のほかに、印紙代四〇万四〇〇〇円、登記関係費用七七九万八八四〇円、謄本代三八〇〇円、前払利息四六三万一五〇三円を、原告花子は、同じく、印紙代一〇万四〇〇〇円、登記関係費用一四五万五〇〇〇円、前払利息八四万五〇三九円をそれぞれ支出した。

(三) 原告甲野企業は、平成元年一〇月一三日、大和銀行から三億三六〇〇万円を借り受け(弁済期・平成二一年一〇月一一日、利息年五・五パーセント、毎月先払)、この借入金等をもって、同原告が被告銀行から借入れていた前記(一)の三億三六一〇万円を弁済した。

原告甲野企業は、大和銀行からの融資に当たり印紙代一〇万円を支出した。

(四) 大和銀行は、平成元年一一月三〇日付で、生命保険料支払資金を使途として、原告太郎に対し一億三一七〇万三〇〇〇円、原告甲野に対し一億八二〇三万四〇〇〇円を貸し付けた(弁済期・平成二一年一〇月三〇日、利息年五・九パーセント、毎月先払)。

(五) その後、原告太郎及び原告甲野企業は、被告明治及び被告住友に対し、それぞれ変額保険契約(終身型)の締結の申込をし、平成元年一一月二四日、被告明治に対し、同年一二月一日、被告住友に対し、大和銀行からの前記借入金をもって、各一時払保険料を支払った。

原告太郎及び原告甲野企業と被告明治及び被告住友との間で成立した各変額保険契約(契約日付は、同年一二月一日である。)の内容(保険契約者、被保険者、基本保険金額、一時払保険料額)は、別紙1保険契約目録各該当欄記載のとおりである(前と同様「本件変額保険契約」という。)。

また、原告太郎は、右保険料のほか、印紙代一〇万四〇〇〇円を支出した。

3 変額保険契約上の権利の譲渡

原告甲野企業は、平成元年一二月一五日、被告千代田生命に対し、被保険者を甲野一郎とする基本保険金額二億円の変額保険契約(別紙1保険契約目録(三)の(3)の保険契約)上の権利を原告太郎に譲渡し、その保険契約者を原告太郎に変更する旨の請求書を提出し、平成二年一月一六日に、右手続が完了した。

4 契約者貸付及び変額保険契約の解約並びに融資金の返還

(一) 原告らは、別紙2契約者貸付金・解約返戻金目録記載のとおり、平成二年九月一九日から同月二一日までの間に、被告生保各社から各本件変額保険につき契約者貸付を受けた。

その合計額は、原告太郎につき、六億八八八八万一五〇〇円、原告花子につき、一億〇九三八万九〇〇〇円、原告甲野企業につき、三億〇五四一万五八〇〇円である。

(二) 原告らは、次いで、別紙2契約者貸付金・解約返戻金目録記載のとおり、平成三年五月一七日から平成四年一一月一三日にかけて、被告生保各社との本件各変額保険契約を解約し、各解約返戻金を受領した。

その合計額は、原告太郎につき、二億七三六一万二六四七円、原告花子につき、三四七五万四二九二円、原告甲野企業につき、九二三三万八六四三円である。

(三) 原告太郎及び原告甲野企業は、平成二年一一月一日から平成五年八月三〇日までの間、大和銀行に対し、右の契約者貸付金、解約返戻金等をもって前記融資契約に基づく元利金(原告太郎につき、合計一億八〇〇八万五五〇〇円、原告甲野企業につき、五億九九〇一万六五二四円)を支払って、その債務を完済した。なお、戻し利息として、大和銀行から、原告太郎は合計六四万二四三五円、原告甲野企業は三二五万四三三五円をそれぞれ受領した。

(四) 原告太郎及び原告花子は、平成二年一〇月二五日から平成六年一〇月二五日までの間、被告銀行に対し、前記契約者貸付金、解約返戻金のほか、他行からの借入金及び自己資金をもって、本件融資契約に基づく元利金(原告太郎につき合計一一億五三一八万三六八九円、原告花子につき合計二億一一七八万七五六六円)を支払って、その債務を完済し、前記根抵当権設定登記の抹消登記手続を終了した。

三  争点及び当事者の主張

本件の基本的争点は、被告らに不法行為責任(主として説明義務違反及び損害額)が認められるか、また、原告らが本件融資契約及び変額保険契約を締結する際錯誤に陥っていたと認められるかである。

1 原告ら

1 変額保険契約を利用した相続税対策の仕組み及び危険性

変額保険とは、加入者から払い込まれる保険料の一部が特別勘定に組入れられた上で株式や公社債等の有価証券に投資され、その運用実績に応じて保険金額及び解約返戻金を変動させる仕組みの生命保険であり、その運用のリスクを、保険会社ではなく保険契約者に負担させる特殊な保険である。

被告らが本件変額保険を原告らに勧誘した当時、変額保険のリスクはもとより、変額保険の存在自体があまり認識されていなかった。

そして、本件のような取扱いは、変額保険の保険料を全額金融機関からの融資でまかなうというものであって、被告らから手持資金の要らない相続対策というふれこみで勧誘されたものであった。また、本件は、元金だけでなく利息までも金融機関からの追貸しによって融資を受けていくものであったから、借入元利金は飛躍的に増大していくのであって、これが相続税対策として有効であるためには、変額保険の運用利回りが、常に融資借入金の利率より高くなっていなければならないのである。

更に、特別勘定で運用される資金は、払込保険料の全額ではなく、これから一定の経費を控除したものであるから、その運用利回りが、単に借入金の利息を上回るだけでは十分でない。そして、特別勘定の運用利回りは、その運用実績によってはマイナスになることもあるのに、借入金の利息は常に一定して増えていく仕組みになっている。

このように、変額保険の運用利回りが悪化する場合には、加入期間が長期になればなるほど借入金額は飛躍的に増えていくことになるから、本件変額保険契約を利用した相続税対策には、このような致命的な欠陥があったのである。

2 被告ら相互の関係

(一) 被告銀行(池袋支店)と被告乙山との間には、本件当時、変額保険を用いた相続税対策を勧めるにつき、事実上業務提携関係が存在し、相互に顧客を紹介し合っていた。

(二) 被告銀行(池袋支店)とベイス(被告丙川が担当課長であった。)との間には、当時ベイスが被告銀行に協力預金をすることと引換えに、被告銀行からベイスが生命保険加入者の紹介を受けるという事実上の業務提携関係が確立していた。

(三) 被告乙山とベイスとの間には、被告乙山が関与してベイス(被告丙川)が成約させた生命保険に関する手数料の支払約束その他の事実上の業務提携関係があった。

(四) 被告生保各社は、ベイス(被告丙川)の総指揮のもと、被告銀行(菅井)、被告乙山及び被告丙川のした勧誘、説明行為を利用して原告らをして各変額保険に加入させた。

3 不法行為責任について

(一) 被告銀行、被告乙山及び被告丙川の責任

(1) 菅井(被告銀行)の関与

菅井は、被告銀行の営業担当者として原告太郎方に出入りしていたところ、平成元年六月初旬ころ、原告太郎に対し、変額保険を使った相続税対策をとるように勧めた。菅井は、この相続税対策につき、原告らはその所有する不動産を銀行に担保として提供するだけでよく、あとは銀行の融資金で保険料の支払やその後の利息の処理など一切を行い、これらの借金は保険金等で返せるので、原告らの手元から一銭も出す必要がないものであって、この上ない相続税対策である、と説明した。

そして、菅井は、被告乙山に協力を求めて、この相続税対策に関する提案書の作成を指示し、また、被告丙川に指示して、被告生保各社の担当者らを通じて前記各変額保険の加入手続をとった。

このように、本件相続税対策の提案書は、被告銀行が、原告らに保険料資金を融資し利益を得るために、被告乙山に依頼して作成させたものである。

原告らが前記のとおり被告銀行から融資を受けて変額保険に加入し、本件相続税対策をとったのは、大銀行である被告銀行の行員である菅井から、右のように絶対に損をしないと説明され、勧誘されたからである。

(2) 被告乙山及び被告丙川の説明の実態

ア 被告乙山は、菅井の紹介により、平成元年四月以降原告らの個人及び法人の税務について顧問契約を締結していたものであるが、菅井の依頼を受けて、同年六月以降、原告太郎に対し、本件相続税対策の採用を強力に勧誘した。

被告乙山の原告太郎に対する右勧誘の実態は、自己が作成した私製のパンフレット(提案書)のみを使用して、素人が理解できるようなリスクの説明を一切することなく、かえって、危険のない安全な相続税対策として説明したものである。

右の提案書に基づく説明は、平成元年九月五日にされたが、そこに被告らが主張するようなリスクに関する説明が全くなかったことは、当日の被告乙山の説明を録音したカセットテープ及びその反訳書により明らかである。

イ 被告丙川は、菅井の指名により、被告乙山と協力してベイスが本件相続税対策に関係して変額保険を提供する生命保険会社を取りまとめることになったため、原告太郎に対し、変額保険の説明をすべき立場に立ったものである。

しかるに、被告丙川は、原告太郎に対し、各社の変額保険のパンフレット、設計書及び契約のしおり・約款等を全く交付しなかったばかりでなく、変額保険や本件相続税対策のリスクについての説明は一切行わなかった。

被告らが主張するようなリスク説明を被告丙川がしたことは全くない。

ウ 原告太郎及び原告甲野企業が、前記のとおり、当初の被告生命保険四社に加え、被告明治及び被告住友の変額保険に追加加入したのは、当初契約だけでは相続税対策として不足であるとする被告乙山及び被告丙川の熱心な勧誘によるものであり、原告太郎は、前記のとおり、当時本件相続税対策が全くリスクのないものと信じ込まされていた結果、右勧誘に応じて追加加入することに同意したのである。

(3) 違法性等

ア 法規違反等

a 当時、保険募集の取締に関する法律(平成七年法律第一〇五号付則三条により廃止前のもの、以下「募取法」という。)九条は、生命保険の募集資格を登録された生命保険募集人に限定し、生命保険協会は、業界の自主規制として、変額保険販売資格を付与された者だけが変額保険の募集に従事できるものとした。そして、大蔵省も、昭和六一年七月一〇日付通達(蔵銀第一九三三号)「変額保険募集上の留意点について」(以下「本件通達」という。)において無資格募集を禁じた。

また、募取法一六条一項一号は、保険契約者や被保険者に不実のことを告げたり、重要な事項を告げない行為を禁じ、本件通達も、将来の運用成績についての断定的判断の提供を禁止している。

更に、銀行法は、銀行に対し、一定の法定の業務以外の業務を営むことを禁止している(銀行法一二条)。

b 菅井(被告銀行)、被告乙山及び被告丙川は、前記のとおり原告らに対し、変額保険の加入を勧誘した。

しかし、菅井及び被告乙山は、変額保険の販売資格を有していないだけでなく、変額保険以外の生命保険募集人の資格すら有していなかった。したがって、菅井及び被告乙山の勧誘行為は、前記募取法九条に違反することは勿論、本件通達にも違反している。

被告丙川は、生命保険募集人の資格とアリコの変額保険販売資格を有していたものの、本件で原告らに勧誘・販売した被告生保各社のいずれの変額保険販売資格も有していなかったのであるから、その勧誘行為は本件通達に違反している。

また、菅井、被告乙山及び被告丙川は、変額保険の運用リスクは、契約者に帰属するという変額保険の最も重要な事項を告げなかっただけでなく、本件相続税対策が融資契約と変額保険が組み合わされた「セット商品」であることによるリスクを告げず、かえって、これが安全確実であることを強調したものであるから、前記の募取法一六条一項一号及び本件通達に違反している。

更に、菅井のした勧誘行為は、銀行法一二条にも違反する保険勧誘行為というべきである。

イ 調査義務及び説明義務違反

a 菅井、被告乙山及び被告丙川が原告らに対して勧めた本件相続税対策は、前記のとおり、銀行融資と変額保険加入を組み合わせた「セット商品」であり、変額保険のリスクと融資についてのリスクを包含するものであって、原告ら金融取引についての知識があまりない者にとっては極めて理解しがたいものであるのに対し、被告銀行、被告乙山及び被告丙川は、その組織性、高度の専門性等を駆使して、その商品としての適格性について調査し、かつ、商品の内容について説明することのできる能力を有していたものであるから、被告銀行(菅井)、被告乙山及び被告丙川には、本件相続税対策として変額保険の加入と融資契約の締結を「セット商品」として勧めるに当たっては、信義則上、原告らに対し次のような調査義務及び説明義務を負担していたものというべきである。

b 調査義務違反

{1} 右被告らは、原告らに本件相続税対策を勧めるに先立ち、それらが原告らにとってプラスの効果をもたらすものであるかについて、調査する義務があった。具体的には、融資利率を年五・八パーセントとし、変額保険の運用利回りを生命保険会社が設定した予定利率である四・五パーセントとして具体的に計算して、相続税対策として有効であるかを検証すること、更に、融資利率を年五・八パーセントとした場合、原告らにとって有効な相続税対策となるためには、変額保険の運用利回りが何パーセント以上必要であるかにつき検証すべきであった。

{2} しかるに、菅井、被告乙山及び被告丙川は、右いずれの調査も行わず、調査義務を尽くさなかった。本件において、変額保険の運用利回りを四・五パーセントと設定した場合には、融資金の元利合計が保険金及び解約返戻金の合算額を上回ることは明らかであるから、右調査を行っていれば、本件相続税対策が、有効な相続税対策とならないことは直ちに判明したものである。

したがって、前記被告らが原告らに対し本件相続税対策を原告らに勧めたこと自体がそもそも違反であるというべきである。

c 説明義務の内容

{1} 前記被告らは、次の事項を具体的に、原告太郎の理解能力に応じて説明すべき義務があった。

<1>変額保険は、資金が特別勘定として独立に運用され、株式等投機性の高いものを中心に投資され、この運用実績に応じて保険金及び解約返戻金は算出されること、<2>運用のマイナス部分は保険契約者の負担となること、<3>保険金は、基本保険金は最低保証されるが、解約返戻金は最低額が保証されていないこと、<4>特別勘定に組入れられる資金は保険料の全額ではなく、諸経費として一割弱が差し引かれるので、銀行借入金額と特別勘定に組入れられる金額の間に一割以上の差があること、<5>被告生保各社の特別勘定の予定利率が年四・五パーセントに設定されていること、<6>運用実績のパーセントと保険金及び解約返戻金のパーセントが同率でないこと、<7>予定利率年四・五パーセントの運用利回りでは相続税対策にならず、マイナス効果となること、<8>借入金元利金と保険金及び解約返戻金の関係を理解させるため、具体的数値に基づいた計算結果を示すこと、<9>本件相続税対策が有効であるための変額保険の運用利回りの分岐点の目安を示すこと、<10>被保険者を原告太郎とした場合とそれ以外の者とする場合の相続税対策の具体的違いを示すこと、<11>保険金及び解約返戻金で借入元利金を返済できない可能性が大であることを示すこと、<12>原告太郎に相続が発生するまで被告富士銀行が借入元利金につく利息相当額を貸し続けるとは限らないこと、<13>その場合、他の資金で利息を支払わなければならず、支払がされない場合には担保物件を競売に付すことがあること。

{2} しかしながら、菅井、被告乙山及び被告丙川は、原告太郎に対し右のような説明をしていないから、右説明義務を怠ったものというべきである。

d 被告銀行(菅井)の調査義務及び説明義務違反

{1} 菅井は、融資銀行の担当者として、前記義務に加え、更に次の調査義務及び説明義務を負っていた。

{2} 菅井は、<1>一四億八四〇〇万円及びこれに対する年五・八パーセントの利息を原告太郎の平均余命一五年後まで融資できる可能性、<2>右の場合における利息合計額、<3>被告生命保険会社の変額保険の予定利率により算出される保険金及び解約返戻金の合計額、<4>右合計額で融資元利金を回収できる見込を調査検討すべきであった。

菅井は、右調査をしなかったが、これをしていれば、原告らが手持資金で支払う能力はなく、また、保険金及び解約返戻金をもっては融資元利金を回収できないことは判明したはずであるから、そもそも原告らに融資したこと自体が違法であったというべきである。

{3} 仮に、被告銀行として融資するのであれば、菅井としては利息年五・八パーセントで一五年間融資をするとは限らないこと、融資するとしても、元利金の合計が、三六億二六二八万円余となり、生命保険会社の予定利率四・五パーセントを基礎として計算した保険金及び解約返戻金では右元利金を支払えなくなることを説明する義務があったものというべきである。

しかし、菅井は、原告太郎に対し右の説明をしなかったから、説明義務を怠ったものというべきである。

ウ 断定的判断の提供

a 被告銀行(菅井)、被告乙山及び被告丙川は、こもごも原告太郎に対し、本件保険の運用利率は、九パーセント以上で安全確実である、銀行からの借金は保険で完済できるのでこの上ない相続税対策である、一銭も手元から出す必要がない相続税対策であるとの断定的判断の提供をし、この結果として、原告らは本件融資契約及び各変額保険契約を締結するに至った。

b 右の断定的判断の提供は、右被告らが積極的に提案勧誘をした本件の経過、本件相続税対策の特殊専門性、被告らの情報独占性等の観点を総合すると、原告太郎がそのリスクを正しく認識することを妨げたものというべきであり、それ自体不法行為を構成する。

(二) 被告生保各社の責任

(1) 被告生保各社の関与

被告生保各社は、各変額保険契約締結に際し、原告太郎に対し、自らの担当社員が説明することを一切していない。

被告生保各社は、自らの担当社員に説明等をさせない代りに、菅井(被告銀行)、被告乙山及び同被告と協力して行われた被告丙川の募集行為を利用して各変額保険加入契約を成立させた。

また、被告生保各社は、原告らに対し、各変額保険に相応するパンフレット、設計書、「ご契約のしおり・定款・約款」等の文書を一切交付していない。

(2) 法規違反

被告生保各社担当者が、原告らに対して、本件変額保険について何ら説明をしなかったことは、重要な事項を告げない行為を禁じている、前記募取法一六条一項一号に違反している。

また、被告生保各社が、自らの担当社員をして説明などの募集行為をさせることなく、菅井、被告乙山及びこれと協力して行われた被告丙川の募集行為を利用して、本件各変額保険を販売したことは、無資格者が募集行為をしたり、ブローカーを介在させることを禁じている募取法九条、一〇条に違反するだけでなく、無資格者募集を禁止する前記本件通達にも違反する。

更に、被告生保各社としては、変額保険加入手続を行う際には、担当者が適正な説明をしたか、「ご契約のしおり・定款・約款」の交付をしたかどうかにつき、社内で確認し、これを行わせるべき信義則上の義務があった。しかるに、本件変額保険の締結過程において右確認は行われておらず、そのため、本来ならば成立させるべきでない変額保険契約を違法に成立させた。

(3) 説明義務違反

ア 前記のとおり、変額保険は、複雑な仕組みの下、ハイリターンが期待される反面そのリスクも大きい特殊な生命保険である。本件当時、変額保険のリスクの存在自体が一般社会に知られておらず、保険とは安全安心のためのものであるとの固定観念が定着していた。

更に、相続税対策として金融機関との「セット商品」として販売する場合には、借入金が増大するため、よりリスクが高い性質があったことも前記のとおりである。

そして、変額保険の保険契約者としては広く国民一般を予定するものであるのに対し、保険会社は変額保険に関する情報を独占する保険の専門家である。

以上のような事情のもとにおいては、被告生保各社は、原告らに対し、信義則上変額保険の内容につき十分理解を得させるに足りる説明義務が課せられていたものである。

イ 説明義務の内容とその違反

a 被告生保各社としては、変額保険のパンフレット、設計書及び「ご契約のしおり・定款・約款」を交付して、重要事項を説明すべきである。

説明の内容は、前記したところと基本的に同様であるが、特に、<1>変額保険は、資金が特別勘定として独立に運用され、株式等の投機性の高いものを中心に投資され、この運用実績に応じて保険金及び解約返戻金が算出されること、<2>運用のマイナス分は保険契約者の負担となること、<3>保険金は基本保険金が最低保証されるが、解約返戻金は最低額が保証されていないこと、<4>特別勘定の予定利率が年四・五パーセントに設定されていること、<5>運用実績のパーセントと保険金及び解約返戻金のパーセントが同率でないこと、については十分に説明すべきである。

b しかるに、被告生保各社の担当者らは、原告太郎に対し、いずれも、交付すべき前記資料を交付せず、また、説明すべきことを説明していないから、被告生保各社には、不作為による説明義務違反が存在するものというべきである。

(三) 原告らの損害

(1) 被告らの不法行為によって原告らが被った損害は、原告らそれぞれにつき、<1>各保険契約のために支払った保険料から原告らが受領した契約者貸付金及び解約返戻金の合計額を控除した残額、<2>融資契約に基づいて被告銀行又は大和銀行に支払った元金及び利息の合計額から支払保険料を控除した残額(別途支出した費用があるときは、これを損害に加算する。なお、被告保険会社に対する関係では、<1>の各損害の割合で按分する。)、<3>請求額の五パーセント相当(万未満切捨)の弁護士費用である。

(2) これを各原告ないし被告生保各社ごとにまとめると、別表1損害請求一覧表(一)ないし(四)各該当欄記載のとおりとなる。

(なお、前記のとおり、原告甲野企業の被告千代田に対する保険契約[別紙1保険契約目録(三)の(3)の契約]上の権利は、原告太郎に移転しており、これに伴い、原告甲野企業が取得した損害賠償請求権は、原告太郎に譲渡されたものと認めるべきであるが、損害額の算定に当たっては、融資契約に由来する損害を保険契約毎に按分して計算する関係上、別表1においては、とりあえず、原告甲野企業のままで算定し、その結果を原告太郎の損害に付加することとする。同表注2及び注6参照)。

(3) 被告銀行は、同表記載の損害のうち、被告明治及び被告住友関係で生じた損害を除くその余の損害の合算額を賠償すべき義務がある。

(4) 被告乙山及び被告丙川は、同表記載の全損害を賠償すべき義務がある。

(5) 被告生保各社は、同表記載の当該各生命保険会社関係で生じた損害を賠償すべき義務がある。

(6) 被告相互の関係は、右金額の限度で不真正連帯債務であり、遅延損害金は、各損害から弁護士費用を控除した残額に対し、不法行為の後である平成六年一〇月二五日(被告銀行の借入金に基づくもの)または平成五年八月三〇日(大和銀行の借入金に基づくもの)から支払済みまで民法所定の年五分の割合により請求する。

(四) 被告生保各社らの消滅時効の主張に対して

消滅時効成立の主張は争う。

本件相続税対策は、専門的で複雑であったため、原告らが契約者貸付を受け、あるいは、変額保険契約を解約した当時は、原告らは、未だ損害の発生を認識していなかった。原告らが被告生保各社の不法行為の具体的内容をある程度理解できるようになったのは、本訴原告代理人に事件の相談をした平成四年秋である。本件訴えの提起は、平成六年九月であるから、原告の被告生命保険会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、未だ時効によって消滅していない。

4 錯誤による本件融資契約及び変額保険契約の無効

(一) 原告ら(具体的には原告太郎)は、前記のとおり、被告銀行の菅井、被告乙山及び被告丙川から本件相続税対策、ひいては、その中核をなす本件融資契約及び本件各変額保険契約のリスクにつき説明を受けず、かえって有利な点にのみ説明を受けて、右各契約を締結した。

(二) その際、原告らは、次のとおり錯誤に陥っており、その結果として、、各変額保険契約締結に至ったものである。

(1) 被告らの勧めた前記相続税対策についての錯誤

ア 銀行からの借入金で保険料を支払って変額保険に加入することは、相続税対策にならない場合があり、更には、相続税対策として有効でないばかりか、かえって借金を負担する結果になることがあるのにかかわらず、そのようなことはなく有効な相続税対策になると誤信したこと。

イ 銀行からの借入金で保険料を支払って変額保険に加入するという本件相続税対策は、保険金及び解約返戻金で借入金全額を支払えるとは限らないのに、保険金及び解約返戻金で借入元利金を支払ってもなお、相当額が手元に残ると誤信したこと。

ウ 変額保険の運用利率と変動保険金及び解約返戻金の利回りが同率ではないのに同率と誤信したこと。

エ 変額保険の特別勘定に組入れられる資金は、支払保険料から一割程度控除された残額であるから、変額保険の運用利回りと借入金の利率とは、比較の基礎が異なるのに同一のレベルで利率を比較すればよいと誤信したこと。

(2) 変額保険についての錯誤

ア 変額保険がハイリスクであるのに、九パーセント以上で回る定額保険同様の安全確実な保険であると誤信したこと。

イ 解約返戻金は、運用実績次第で限りなく減少することがあるのに、年を経るに従って九パーセント以上の配当金が積み重ねられてゆくものと誤信したこと。

ウ 変額保険の資金は、株式や公社債などのハイリスクハイリターン商品を中心に運用され、そのリスクを保険契約者が負担するのに、そのようなことはないと誤信したこと。

エ 資金が特別勘定に組入れられて独立に運用され、変動保険金及び解約返戻金が特別勘定の資金を基礎として算出される仕組みとなっているのにそのようなことはないと誤信したこと。

(3) 本件融資契約についての錯誤

ア 本件融資契約に基づく借入元利金は、必ずしも保険金及び解約返戻金で返済できるとは限らないのに、右支払は確実であり、なお手元に余裕資金が残ると誤信したこと。

イ 被告銀行から相続発生までの利息相当額を借り続けられるとは限らず、その場合は手持資金で支払うことがありうるのに、そのようなことはないと誤信したこと。

ウ 借入金不払の場合は、所有不動産が競売にかけられる可能性があるのに、そのようなことはないと誤信したこと。

(三) 原告らの右の錯誤は、法律行為の要素の錯誤に当たるというべきであるから、原告らと被告生保各社との間の本件各変額保険契約、原告太郎及び原告花子と被告銀行との間の本件融資契約は、いずれも無効である。

(四) したがって、右各契約が無効であることにより、被告銀行は、原告太郎及び原告花子から受領した支払利息相当額を、被告生保各社は、受け取り保険料額から契約者貸付金及び解約返戻金の合計額を控除した残額を不当利得として返還すべき義務がある。

そして、その金額は、別表2不当利得返還請求一覧表記載のとおりである(原告甲野企業の被告千代田関係の不当利得金返還請求権が原告太郎に移転したことは不法行為におけると同じである。同表注1及び注2参照。)。

(五) 被告らの変額保険契約の追認の主張に対して

被告らの主張は争う。

確かに、原告太郎らは、原告らが被告生保各社から契約者貸付を受けたとき及び変額保険契約を解約したとき、いずれにおいても異議を述べてはいない。

しかし、右時点においては、原告太郎は、本件相続税対策について正しい理解をしていなかったため、異議を述べなかったに過ぎず、各契約が無効であることを認識していたものではないから、右の事実があったからといって、各変額保険契約を追認したことにはならない。

(六) 本件融資契約及び本件変額保険の締結につき原告らに重過失があるとの主張は否認する。

[2] 被告ら

1 原告太郎の経歴、投資経験、当時の経済情勢等

(一) 原告太郎は前記のとおり、昭和四三年三月に法務省を退職後は、昭和四八年一〇月に所有不動産の管理を行うことを目的として原告甲野企業を設立し、同社の代表取締役として不動産賃貸業を営んで現在に至っている。

原告太郎は、高額の借入金を前提とするビル事業計画等を税務専門家らに相談するなどして慎重に進めており、また、昭和六〇年頃から被告富士銀行と取引があったが、その間、八五〇万円の金投資や、七〇〇万円の転換社債の購入も行っているし、被告乙山及び被告丙川が本件変額保険を勧誘した当時、日経マネーを読んでおり、財テクに強い興味を有していた。

平成元年九月五日、被告乙山が原告太郎に対してした変額保険についての説明をテープにとって保存していることからも、原告太郎の慎重な性格が窺われる。

このような原告太郎の経歴等からして、原告太郎は十分な知的能力があり、被告らのする説明を十分に理解することができたものというべきである。

(二) 平成元年ころの経済社会情勢

平成元年当時は、いわゆるバブル経済が頂点に達しようとしていた時期であり、変額保険を含む株式投資により運用される金融商品は、運用利回りが軒並み一割を越える好調な成績を示していた時期であった。

また、当時は、不動産の取引価格が急激に上がったため、相続税計算の基礎となる路線価が相当引き上げられており、相続税支払のために遺族が住み慣れた自宅を処分せざるを得ないといった事例も報道されていた。

(三) 契約者貸付の際の原告太郎の対応

平成二年夏以降、前記のとおり、原告太郎は、被告生保各社から契約者貸付金の交付を受け、大和銀行や被告銀行からの借入金の返済を行った。原告太郎が右のような措置をとった理由は、変額保険運用成績が低迷した事態になったためであり、そのことは原告太郎自身十分認識していた。そうであるにもかかわらず、原告太郎は、被告乙山、被告銀行、被告生保各社に対し、変額保険の運用利回りが悪化していることについて、何らクレームをつけていない。このことは、原告太郎が、変額保険のリスクを加入当時から認識していたために、その責任を被告乙山らに問うことができないと考えていたからであり、この事実からして、原告太郎が、変額保険のリスクについて十分認識したうえで、本件変額保険に加入したことは明らかである。

2 不法行為責任について

被告らに不法行為責任があるとの原告らの主張は、いずれも争う。

(一) 被告銀行

(1) 原告太郎は、常日頃からの相続税の負担を子供たちにかけたくないと考えていたため、平成元年五月下旬ころ、日経マネー誌に掲載された銀行借入れによる変額保険加入を利用した相続税対策について興味を持ち、原告太郎宅を訪問した菅井に対し、被告銀行でもそのための貸出を行っているかどうかを尋ねた。菅井は、この変額保険を利用した相続税対策というものを知らなかったので、これに詳しい被告乙山に説明してもらうよう依頼したにすぎない。

本件変額保険については、被告乙山及び被告丙川において、原告太郎の能力に応じた変額保険のリスクについて十分な説明を行っている。

そして、原告太郎は、右のリスクを理解した上で変額保険契約を締結したのである。菅井は、求めに応じて原告らに融資を行っただけであって、変額保険に関しては何ら説明していないし、もとより、原告ら主張のように借金は保険金等で返済できるので原告らは手元から一銭も出す必要がないなどと説明するはずもない。

2 被告生保各社と原告らの間の変額保険契約と、被告銀行と原告らとの間で締結された本件融資契約とは、法律的には全く別個の契約であって、両者が予め組合わされていたわけではない。本件の各契約は、借入金による生命保険加入の手法により相続税を軽減すること等を企図して行われた一連の取引に過ぎない。

被告銀行の従業員が、変額保険の内容やそれと組み合わされた節税効果について説明義務を負うものでないことは明らかである。

また、借主が借入金の返済をどのように行うかは、本来借主自身が検討すべき事柄であり、原告ら主張のように貸主である被告銀行が変額保険の解約返戻金で回収が可能であるかを調査、説明すべき義務を負うこともない。

(二) 被告乙山

(1) 被告乙山は、本件変額保険について、被告乙山の側から積極的に勧誘ないし募集をしたものではなく、かえって、原告らの方から変額保険を使った相続税対策についての説明依頼があったので、これを説明したにすぎない。変額保険を使った相続税対策をとるということは、被告乙山に対して具体的な依頼がある前に既に決まっていたのである。

(2) 被告乙山は、変額保険の仕組みについては随時説明を加えていたが、右依頼に応じ、平成元年九月五日、そのために自ら作成した提案書を原告太郎に交付し、これを一枚一枚めくりながら詳細に説明を加えた。右提案書には、「変額保険が利息、配当などのインカムゲインのみでなく株式などの資産の値上がり益であるキャピタルゲインも運用果実として契約者に還元します」と記載があり、被告乙山は、これに基づいて、変額保険が定額保険のように確定利回りではなく、基本的に株で運用されていること、株が上がれば運用実績が上がるし、株が下がれば損をすることを詳しく説明した。また、変額保険のリスクを説明するため、わざわざ「変額保険の利回りは、八七年十月のブラックマンデー(株式急落)でマイナスになった生保もでた」との記載のある日本経済新聞の記事を右報告書に添付し、右記事に基づいて原告太郎に対し詳しく変額保険のリスクを説明した。

被告乙山は、変額保険の運用利回りを九パーセントとして説明したが、それは、あくまで仮定の上で設定したものであって、原告太郎にも十分説明して了解を得ている。原告太郎は、被告乙山のこのようなリスクの説明に対しても驚いた様子も見せず、変額保険の仕組みについて十分理解していたものである。

したがって、被告乙山の説明は、説明義務を尽くしたものと評価できるというべきである。

被告乙山は、当日、保険料が合計で七億五〇〇〇万円程度となる設定が必要であると説明したが、原告らが現に加入した変額保険の保険料の合計は、一四億円にも及んでいる。このように保険料が増額されたことに、被告乙山は関与していないし、当初、原告らが加入した保険会社、被保険者等の決定に関しても関与していない。

また、原告らが被告明治及び被告住友の変額保険に追加加入したのは、被告乙山が勧誘したためではなく、原告太郎から追加加入したいとの申入れがあったからである。そして、被告乙山は、そのうち被告明治を原告太郎に紹介しただけである。

(3) 被告乙山は、公認会計士、税理士であって、生命保険募集人ではないから、保険を勧誘する権限も義務もない。また、被告乙山は、原告らが本件変額保険に加入した過程で、全く利得を得ていない。したがって、仮に、被告乙山が変額保険についてのリスクを原告太郎に説明していなかったとしても、被告乙山に不法行為責任はない。

(三) 被告丙川及び被告ニコス

(1) 本件において、菅井、被告乙山及び被告丙川は、変額保険のリスクについて、融資契約、相続税法、変額保険のリスクについて、それぞれ分担して十分な説明を行った。

(2) 被告丙川が行った説明は、次のとおりである。すなわち、

ア 被告丙川は、平成元年五月一〇日、アリコの紹介でベイスとして被告銀行池袋支店を訪問して、菅井らと面会し、従業員を被保険者として変額保険を購入してくれる法人の紹介を依頼していたところ、本件変額保険につき保険会社を取りまとめる依頼を受けて本件に関与するようになった。

イ 被告丙川は、原告太郎に折々変額保険のリスクについて説明してきたが、特に詳細な説明を加えたのは同年九月一九日である。すなわち、被告丙川は、同月五日、被告乙山から同被告作成の提案書の写しの交付を受けたが、右提案書には変額保険加入後三年目までの短期間の運用益が借入元利金を下回るリスクが記載されていなかったため、短期間で見たときの借入リスクを説明した書類の作成が必要と判断した。

そこで、被告丙川は、変額保険と借入の双方のリスクを説明するため、自ら説明書を作成し、右書面を用いて、同月一九日の健康診断の際、原告太郎に対し、「変額保険は運用がよいときは保険料よりプラスになるし、悪いときは保険料を下回る。右書面の運用益の九パーセントは仮定の数値である。」と説明した。

被告丙川は、説明に際し、既成の商品パンフレット等を用いなかったが、それは、パンフレットの実例表を交付すれば、かえって、加入当初から常に借入利息以上の運用利益が取得できると誤解させるおそれがあるので、敢えて利用しなかったのである。

このように被告丙川は原告太郎に対し、十分な説明をしているのであって、原告主張の注意義務違反はない(なお、被告丙川は、法廷において、同月二二日に原告らが加入する生命保険会社をアリコから被告朝日に変更したと供述したが、事実はそれと異なり、同月一四日にはすでに被告朝日への変更を決定していた。したがって、同月一九日に乙一八号証の一ないし三が作成されていたことは間違いない。)。

なお、被告丙川は、その後被告乙山から、原告太郎が変額保険の追加購入を希望しているので生命保険会社を紹介して欲しいと依頼されたため、被告住友を紹介しただけであり、被告丙川の方から原告らに追加加入を勧めたわけではない。

(3) いかなる時代にあっても、投資判断は契約者が決断すべき事項であり、その決断に誤りがあったからといって、勧誘をした者に責任を転嫁すべきではない。

(4) 被告丙川が、原告太郎に対して、変額保険の説明を行った際、既に原告らは変額保険に加入することを決定していたのであるから、被告丙川には、変額保険の内容について原告太郎に誤りがないかどうか改めて確認すべき義務はない。

(四) その他の被告生保各社ら

(1) 原告らの変額保険の仕組み・リスクについての認識

原告太郎の経歴等からみて、原告太郎は、本件相続対策の仕組みのほか、変額保険が特別勘定資金により株式等に運用されていること、その運用いかんによっては、保険金、解約返戻金が支払保険料を下回りマイナスになることを認識するに足りる十分な能力を有していた。

そして、被告乙山及び被告丙川は、原告太郎に対し、変額保険が株価等に連動する保険であり、運用実績によっては、運用利回りがマイナスになることを説明しているのであるから、原告らは、変額保険の仕組みとリスク、相続税対策のリスクについて十分に理解した上で本件変額保険契約を締結したものというべきである。

(2) 被告丙川の行為について

ア 被告丙川はアリコの変額保険を販売することができる資格を有していたし、たとえ形式的に被告丙川の勧誘が募取法に違反していたとしても、それは単に行政法規違反にすぎず、実質的に適正な説明が行われていた以上、私法上の違法性はない。

イ 被告千代田は、被告丙川から変額保険加入希望者の紹介を受けたに過ぎず、被告丙川を利用したものではない。そして、被告丙川は、被告千代田と募集代理店契約を締結しているベイスの職員であるから、被告丙川が被告千代田生命に顧客を紹介することは問題がない。

ウ 被告丙川は、被告明治の保険販売については何らの資格を有してはいないものの、アリコの生命保険募集人の資格及び変額保険の販売資格を有していたものである。

被告明治は、被告丙川に変額保険の募集を依頼したわけではないから、被告明治は、募取法違反の勧誘をしていない。

エ 被告住友は、被告丙川の行為を利用したものではないから、被告住友が被告丙川を通じて保険募集行為を行ったことにはならない。

(3) 被告生保各社の固有の説明義務について

ア 原告らは、すでに変額保険に加入することを決定した上で、加入する生命保険会社の一つとして、被告朝日及び被告千代田を選択しているのであるから、募集活動をする際に求められる私法上の説明義務は存在しなかった。

イ 被告三井の担当者は、原告太郎に変額保険の設計書五通を交付し、変額保険が特別勘定で運用されること、運用先が株や債券であること等、変額保険の仕組みについて説明し、更に、保険設計書の運用実績例表を示して、運用実績四・五パーセントで、解約返戻金と払込保険料が同じくらいになること、それを下回ると解約返戻金が払込保険料より少なくなること等、変額保険のリスクについても十分な説明をした。これに対して、原告太郎からは格別の質問は出なかった。その際、原告太郎に対し、「保険のしおり・定款・約款」を交付した。

以上のとおり、被告三井担当者は、本件変額保険締結につき、変額保険の仕組み、特徴等を説明しており、原告太郎の納得を得てその加入申込を受けたものであるから、被告三井は、原告らに対し不法行為責任を負わない。

ウ 原告らは、既に四社の生命保険会社と変額保険契約を締結しており、十分な商品知識を得た上で、後になって被告明治及び被告住友に変額保険の加入を申し込んでいるのであるから、改めて、被告明治の説明義務が問題となる余地はない。

エ 原告太郎は、被告乙山及び被告丙川の説明を受けた上、自ら変額保険への加入を決断したものであり、被告住友には変額保険に関する説明義務はない。

また、被告住友は、原告太郎の委任を受けた被告丙川に設計書を交付しているのであるから、保険会社として何ら義務違反はない。

(五) 損害について

原告らは、平成二年九月一九日から同月二一日にかけて、被告乙山のアドバイスにしたがって、被告生保各社から契約者貸付によって融資を受け、銀行からの融資金の一部を返済した。原告らは、少なくともこの時点では、変額保険のリスクについて理解したものであり、その上で、自らの意思で変額保険契約を継続したのであるから、右時点以降の損失についての損害賠償請求権は発生しない。

(六) 消滅時効について

仮に、被告らが不法行為に基づく損害賠償義務があるとしても、原告らが被告生保各社から前記の契約貸付を受けた時点において、損害額は確定しているのであるから、この時点が時効の起算点と解すべきである。そして、本訴が提起されたのは、平成六年九月三〇日であるから、原告ら主張の不法行為に基づく損害賠償請求権については、既に消滅時効が完成している。

また、仮に、そうでないとしても、少なくとも本件変額保険を解約した時点からは、時効期間が進行するものと解すべきである。

したがって、平成三年九月三〇日以前に解約された変額保険についての損害賠償請求権については、消滅時効が完成している。

被告らは、平成一〇年三月二日の本訴第一四回口頭弁論期日において右消滅時効援用の意思表示をした。

3 錯誤無効の主張について

(一) 本件融資契約及び各変額保険契約が錯誤により無効であるとの主張は、否認する。

前記のとおり、原告らは、被告乙山、被告丙川らの説明によって、変額保険に内在するリスクについて十分認識した上で、これらの契約を締結したものというべきであるから、錯誤があったということはできない。

(二) 原告らと被告朝日及び被告千代田とは直接の接触はなく、書面による契約の申込を受けたものであり、原告らからかかる事実について表示されたことはない。

(三) 被告三井の担当者が原告太郎に対し、十分変額保険のリスクを説明したことは前記のとおりであるから、原告らには錯誤は存在しない。

(四) 変額保険契約の追認について

原告らは、本件変額保険加入後、各保険会社から契約者貸付を受けているが、この貸付は、契約の有効を前提とするものであり、契約の事後承諾に当たる。また、各変額保険契約は、契約が有効であることを前提として解約されており、これも、変額保険契約の事後承諾に当たる。

(五) 原告らの重過失について

仮に、原告らに原告ら主張の錯誤があるとしても、原告太郎は、僅かの注意義務を尽くせば、容易に本件融資契約及び変額保険契約のリスクにつき認識できたものというべきであるから、原告らには重大な過失があり、各契約の無効を主張することはできない。

第三  当裁判所の判断

一  変額保険の特質、販売規制及び変額保険を利用した相続税対策

《証拠略》によると、次の事実を認めることができる。

1 変額保険とは、保険会社が保険契約者から払い込まれる定額の保険料のうち一般勘定に繰り入れられる部分を除いた積立金を特別勘定として独立に管理し、これを主として株式や債券等の有価証券に投資して運用し、その運用実績に基づき、保険金額や解約返戻金を変動させる仕組みの保険である。

従来の変額保険では、一定額の保険金額、解約返戻額の支払が保証され、資産運用の変動によるリスクを保険会社が負っているのに対し、変額保険では、一般勘定と分離した特別勘定を設けて独立に資産の管理・運用を行うため、特別勘定の運用実績によって保険金額、解約返戻金額等が変動し、高収益が期待できる反面、株価の低下や為替の変動等によるリスクも保険契約者が負担することとされているため、満期保険金及び解約返戻金については最低保証がないことなどが特徴である(なお、終身型の場合、死亡・高度障害保険金については、保険金額の最低保証が基本保険金額として設けられている。)。

このように、変額保険は、経済・金融情勢及び資産運用の巧拙によって高い利益が期待できる反面、保険契約者が変動のリスクを負うことになるという点で、従来にはない、いわゆるハイリスク・ハイリターンの性質を有するものである。

2 変額保険は、我が国においては昭和六一年七月に大蔵大臣によって許可され、同年一〇月からその発売がされたが、このように保険契約者の自己責任原則に基づく保険はそれまで存在しておらず、また、その仕組みも複雑で一般人には理解が困難な点もあるため、変額保険の募集・販売については、次のとおりの規則が設けられていた。

(一) 前記募取法は、生命保険募集人の登録をし、その者の行う募集を取り締まり、もって、保険契約者の利益を保護し、あわせて保険事業の健全な発達に資することを目的として制定されたものであるところ、同法は、変額保険の募集に関しては、通常の保険と同様、募集資格を登録された生命保険募集人のみに限定し(募取法九条)、かつ、生命保険会社は他の生命保険会社の生命保険募集人に対して募集を委託してはならず、また、生命保険募集人は、他の生命保険会社の使用人等として募集を行うことができないものとし(同法一〇条)、募集の際に使用する募集文書図画(同法二条五項)には、生命保険募集人の所属保険会社の商号もしくは名称等を記載しなければならず(同法一四条)、また、保険会社の将来における利益の配当等に関する事項を記載してはならないとされ(同法一五条二項)、更に、保険契約者又は被保険者に対して、不実のこともしくは保険契約の契約条項の一部について比較した事項を告げ、又は保険契約条項のうち重要な事項を告げない行為、特別の利益の提供を約する行為等が禁止されている(同法一六条一項一号、四号)。

(二) 大蔵省は、前記認可に際して、資産運用実務によって保険金額が変動し、資産運用の成果もリスクも保険契約者に帰属する変額保険の特質を考慮し、契約者との無用のトラブルや募集秩序の混乱を防止する等の観点から、前記の昭和六一年七月一〇日付の本件通達を発し、その中で、禁止行為として、(1)将来の運用成績についての断定的判断を提供する行為、(2)特別勘定運用成績について、募集人が恣意的に過去の特定期間をとりあげ、それによって将来を予測する行為、(3)保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約返戻額を保証する行為を掲げ、更に、変額保険販売資格制度については、保険契約者の利益保護及び健全な募集秩序維持をはかるため業界自らが設定した趣旨を踏まえ、販売資格を有しない者が変額保険の募集に従事すること等のないよう万全を期するよう指示した。

また、大蔵省から各生命保険会社に宛てた昭和六三年五月の口頭通達では、一時払養老保険の保険料ローンに代表されるような財テクを勧める等、保険本来の趣旨を逸脱した提携を金融機関と行わないこと、提携先金融機関に対し、募取法違反がないよう徹底すること、募集文書の作成に当たっては、過度に利殖性、有利性を強調しないことを求めた。

(三) 被告生保各社を含む業界団体である生命保険協会は、変額保険の募集・販売について、資産運用の成果もリスクも保険契約者に帰属するという変額保険の特徴・仕組み等を契約者に十分に理解させるために特別の配慮をすべき必要を認め、生命保険業界の自主規制として次のような措置を採った。

(1) 変額保険の販売に当たる生命保険募集人自身が、通常の保険募集に必要な知識に加え、変額保険特有の特徴・仕組みや金融についての幅広い知識を要求されることから、変額保険の販売資格制度を導入し、生命保険募集人として登録されている者を対象として、変額保険販売資格試験を実施し、これに合格して販売資格を付与され、生命保険協会に登録された者だけが、変額保険の募集に従事することができるものとした。

(2) また、変額保険の特徴、資産運用の方針等に関する情報を顧客に開示することの重要性を考慮し、募集・販売の際、<1>保険金額の増減と基本保険金額(最低死亡保証額)の関係、<2>資産運用方針及び投資対象、<3>特別勘定資産の評価方法、<4>モデルに基づく試算例(〇パーセント、四・五パーセント、九パーセントの場合)、<5>解約返戻金額及び満期保険金額が保証されていないこと、の五項目について、特に顧客の確認を求めることになった。

(3) 更に、生命保険業界の自主的運営ルールとして「募集文書図画作成基準」を設け、募集文書図画の作成・使用に当たっては、生命保険協会への登録の手続を経ることを必要とし、登録を受けていない私製資料の使用を禁止し、特に、パンフレットや保険設計書等の募集文書における死亡・高度障害保険金、満期保険金、解約返戻金の表示については、特別勘定の運用実績の例示を〇パーセント、四・五パーセント、九パーセントの三通りの場合に限ることとした。

(4) この自主規制に基づいて生命保険会社各社は、それぞれ、変額保険に関するパンフレット、「ご契約のしおり・定款・約款」及び設計書等の文書を用意した。

3 変額保険と異なり、変額保険には、長期間保有することによってインフレの進行による保険金額の実質的目減りを防止することができる点に保険資産としての長所があるが、我が国では、更に、いわゆるバブル経済期における株価及び不動産価格等の急騰を背景として、変額保険の保険料を銀行から借り入れて保険料を一括払いして払い込むことによって土地所有者の相続税対策とすることを目的として変額保険契約を締結する例が多数みられた。

変額保険による相続税対策としては、被保険者を土地所有者本人(被相続人)とするタイプと、土地所有者の相続人を被保険者とするタイプとがある。前者の被保険者を被相続人とするタイプは、相続発生時に遺族に支払われる死亡保険金によって、借入金の元利合計を返済し、残額を相続税の支払いに充てるというものである。後者の被保険者を土地所有者の相続人とするタイプは土地所有者死亡時に、借入金債務と生命保険契約上の権利が被相続人から相続人に移転し、一時払生命保険の権利評価が相続税法上、一時払保険料の額によるものとされているために(相続税法二六条一項但書)、マイナス財産である借入金債務は利息によって大きく膨らんでいるのに対し、プラス財産である保険の権利評価額は一時払保険料のままで一定である結果、その差額分だけ相続財産全体の評価が圧縮され、相続税が低減されるとの節税効果が生じるものである。

しかしながら、いずれの場合であっても、変額保険の運用利回りが低くなれば、銀行からの借入金利が運用実績を上回る事態になり、保険金や解約返戻金では借入元利金を支払いきれない事態も生じるものであり、いわゆるバブル経済の崩壊の結果として、現に、そのような事態に立ち至っている事案も多い。

二  平成元年当時の社会経済情勢

《証拠略》によると、次の事実を認めることができる。

1 平成元年当時、不動産価格はなお上昇傾向にあり、これに伴う相続税の高騰とその納付の困難性は、一般的にも危惧されており、銀行からの借入資金によって所有土地に賃貸住宅を建設する等の様々な方法での相続税の圧縮を図る方策が試みられるようになっていた。

2 変額保険の運用利回りは、加入保険会社及び加入月によって異なるが、《証拠略》によれば、その当時明らかになっていた最新の昭和六三年三月加入の被告生保各社の変額保険の運用利回りは、おおむね一〇パーセント前後であった。

三  原告太郎の経歴、投資経験、資産状況等

前記前提となる事実のほか、《証拠略》によると、次の事実を認めることができる。

1 原告太郎は、昭和二二年九月に丁原大学法学部を卒業し、昭和二三年三月ころから同年暮れころまで厚生省に勤務し、その後、昭和二四年四月から昭和四三年三月まで法務省官房庶務係に勤務していた。

そして、右庶務係長を最後に法務省を退職した後は、自己の所有する不動産を管理し、昭和四八年一〇月には、原告甲野企業を設立して、自ら代表取締役に就任した。

2 原告太郎の父親は昭和二九年、母親は昭和四七年にそれぞれ死亡し、原告太郎は、長男として、その遺産を相続した。その際、相続税に充てる資金を捻出するため、相当の不動産を手放さなければならなかったので、原告太郎としては相続税の支払が容易でないことを認識していた。

3 本件変額保険の勧誘を受けた当時、原告らが甲野一族として所有する不動産としては、マンション二棟、マンション一室、アパート一棟、駐車場二箇所及び貸地七筆であり、原告らは、これらを賃貸して収益をあげていた。

原告太郎は、昭和六〇年一〇月二六日、被告銀行池袋支店と取引を開始している。当時の被告銀行の担当者の勧めにより同年一一月、八五〇万円を金に投資し、一年後五〇万円の利益をあげたり、同年一二月六日、山一証券から転換社債七〇〇万円を購入したことがあるほか、昭和六一年から平成元年にかけて東池袋三丁目所在の約一五〇坪の土地について、隣接地の所有者と共同して七〇億六〇〇〇万円位の規模のビル化事業の計画を検討、推進しようとしていたこともあり(右計画は、借地権者との話し合いに時間がかかった結果実現されなかった。)また、四〇坪くらいの土地に、一億円をかけて四階建てマンションを建てる計画を試みたこともある。

四  本件変額保険契約及び融資契約締結の経緯

《証拠略》によれば、本件変額保険契約等締結の経緯は、次のとおりと認めることができる。

1 原告太郎と被告銀行との取引は、昭和六〇年三月に開始された後、一時疎遠となっていたが、菅井が昭和六三年夏、被告銀行池袋支店の営業担当として着任し、同年一一月頃、取引の再開を求めて原告太郎宅(原告甲野企業の事務所所在地でもある。)を訪問するようになってから、再び活発となってきた。

菅井が、昭和六三年一二月末、原告太郎宅を訪れたところ、原告太郎は、菅井に対し、当時の顧問税理士が、老齢の上、相続税対策に不熱心であることを告げ、別の顧問税理士の紹介方を依頼してきた。

そこで、菅井は、上司とも相談の上、同月二七日、被告銀行と親交のある被告乙山を同行して原告太郎方を訪れ、同人を原告太郎に紹介した。原告太郎は、平成元年四月、原告甲野企業の代表者として被告乙山と顧問契約を結び、原告甲野企業の税務代理、税務書類の作成、会計業務の事務処理を委嘱するとともに、原告太郎個人の税務上の問題について相談するようになった(当初の契約期間は二年間とされた。)。

2 ベイスは、アリコから紹介を受けて、被告銀行から営業上の情報提供を受けることを希望し、被告丙川において、同年五月一〇日、被告銀行池袋支店を訪ね、同支店の幹部職員に対し、法人の変額保険及び変額保険に加入する見込のある大口の得意先を紹介してくれるように依頼し、被告銀行は、被告銀行に対する預金協力等の見返りがされることを前提に協力を約した。

3 平成元年五月又は六月頃、菅井が原告太郎方を訪問した際に、各種相続税対策の話が出たが、その話の中で、菅井は、一つの案として、当時各種雑誌類にも報道されていた、銀行からの借入金によって一時払保険料を支払い、変額保険に加入する方法を紹介した。

これに対し、原告太郎が興味を示し、変額保険加入による相続税額の節税が可能であるのか、税務当局の見解を含めて確認したい、との意向を示した。そこで、菅井は、原告太郎に対し、被告乙山に変額保険利用による相続税節税対策の仕組の有効性を説明してもらうことを提案し、その頃、同被告にその旨を依頼するとともに、自らも資料を検討し、その仕組み、内容についての知識を確認した。

4 被告乙山は、変額保険が我が国に導入された後間もなくから、アリコの依頼に基づいて変額保険を利用した相続税節税対策について一定の研究を遂げていたので、菅井からの依頼を受けてこれを承諾し、同年六月半ば頃、菅井とともに原告宅を訪れ、自己の研究の成果である変額保険を利用した相続税対策について、概要を説明した。

これに対して、原告太郎は、大いに興味を示し、同月二八日、被告乙山に対し、更に具体的な説明の要請をするとともに、その素材として財産評価明細書を送付した。

被告乙山は、説明資料の作成にとりかかったところ、内容的には変額保険に関係するため、自分だけで作成することは困難と考え、菅井に連絡して保険会社に作成を依頼するよう打診したところ、菅井は、相続税対策として被告乙山に対して作成依頼があった以上、被告乙山において作成する必要があると指摘し、結局、被告乙山がその作成に当たることが了承された。

5 同年七月二八日、原告太郎は菅井の案内で被告乙山の事務所を訪問した。その場においても、被告乙山から変額保険を利用した相続税節税対策についての説明があり、原告太郎も、これに積極的な姿勢を示した。菅井も、銀行融資の実現につき積極的意向を示した。

6 菅井は、このように原告太郎が変額保険加入に積極的姿勢を示していることを考慮し、上司と相談の上、そのような場合には、かねて被告銀行に顧客の紹介依頼が来ているベイスに各生命保険会社のとりまとめをさせることとし、その旨を被告丙川に連絡し、同年八月八日、同被告を伴って被告乙山事務所に赴き、被告丙川を被告乙山に紹介した。

この席で、以後ベイスが各生命保険会社と顧客とをつなぐ窓口となることが了解され、また、被告丙川からは、被告乙山に対し、ベイスからの手数料の支払についての協議がされた。

なお、被告乙山は、ベイスの信用につき懸念を持ち、菅井にその点につき確認したが、菅井は、ベイスの信用については心配ない旨回答した。

菅井は、同年八月一一日、被告丙川に原告太郎らの生年月日などを記載したファックスを送付し、原告らの変額保険加入計画を立てるように依頼した。被告丙川は、原告らの資産状況等をもとに、アリコを通じて、原告らが変額保険に加入した場合の保険料等につき調査を行った上、その調査結果を被告乙山に送付した。被告乙山は、これらをもとに後記の相続税対策提案書を作成した。

この間、被告丙川は、被告乙山と何回か連絡し、原告らと変額保険契約を結ぶことになる生命保険会社の選定、契約内容等について協議をした。

7 被告乙山は、同年八月三〇日、原告太郎宅を訪問して、原告甲野企業の決算等の説明を終了した後に、原告太郎に対し、納税通信第二〇八八号を示して、変額保険に関する説明をした。

右納税通信には、「生保節税が急増」、「巨額掛金で相続対策に」、「解約金の評価減を利用」、「国税庁いまのところ問題視せず」との見出しが掲げられ、土地などの担保物権があれば自己資金がなくとも巨額の生命保険(一時払養老保険又は変額保険)に加入することによって相続税発生時に多額の資金を得ることができる上、払い込んだ保険料が相続税の評価額となるので、運用益については課税されず、相続税対策になるとの記載がされている。なお、同記事には、「問題点チェック」との小見出しのもと、金融機関から長期に亘り多額の資金を借り、この間元金、利息とも据え置きにしておくため、金利の動向が問題になる、金利が高ければ銀行だけを儲けさせる恐れがあるとの注意も記載されている。

8 被告乙山は、同年九月五日までに、原告太郎及び菅井からのかねての依頼に基づく資料を完成し、同日、これを持参して、原告太郎方を訪問した。

(一) 右資料は、「甲野様 相続税対策」と題する表紙(一頁)を含む全一二頁にわたる変額保険を用いた相続税対策の提案書である(以下「本件提案書」という。)。

本件提案書の記載内容は、おおむね次のとおりである。

(1) 二頁及び三頁は、相続税の納付額に関する記載である。かねて交付を受けた資料から、原告太郎の財産を二五億円、原告花子の財産を一二億五〇〇〇万円と評価した上で、一次相続(原告太郎の相続)では七億一六五五万〇二五〇円、二次相続(原告花子の相続)では一四億九四六〇万円、合計二二億一一一五万〇二〇〇円の相続税の納付が必要であるとしている。

(2) 四頁は、契約者及び受取人を原告甲野企業、被保険者を原告太郎とした場合の効果に関する記載であり、効果として、「1借入金利息が損金となる。→節税ができる。2納税資金対策が打てます。→退職金は納税資金に。3有利な財テクともなる。→利回りは9%~」との記載がある。

(3) 五頁は、保険加入者一名、保険金額一億円+変動保険金、保険料五九五一万三〇〇〇円、銀行からの借入金利を六%、変額保険の運用利回りを九%とした収益試算表である。経過年数(三年・五年・一〇年・一九年)ごとに、累計利息、節税額、解約時受取額、実質利益、死亡保険金が表示され、常に実質利益がある旨が記載されている。

(4) 六頁は、「生命保険の評価減利用」との見出しで、父親が被保険者となった場合には、一時払い保険料額が相続税の評価額となるので、配当や利回りによって増加した分は無視され相続税が課せられないというメリットがあると記載されている。

(5) 七頁及び八頁は、契約者を原告太郎、被保険者を原告花子、長男、長女及び次女とし、一時払い保険料の合計を三億一二一九万円、同額を不動産ローン(当初利率年五・七パーセント)で借り入れるとした場合の試算表とその説明である。経過年数(五年・一〇年・一五年)ごとに、解約時受取金、含み益部分(相続対象外)、借入金、運用益、評価減、相続税減税実質利益の数値が記入され、いずれも実質利益がプラスとなっている。そして、相続税の評価は当初のままなので長期の相続税対策として有効であること、ただし、保険を解約すると解約返戻金に課税がされるので、納税資金が必要な場合には、生命保険会社より契約者貸付を受けて支払ったほうが有利であると記載されている。

(6) 九頁には、「さらに、保険の種類として従来の確定利回りである定額保険でなく変額保険も検討すべきです。」、「変額保険は利息、配当などの運用果実を契約者に還元します。」、「変額保険は利息・配当などのインカムゲインのみでなく株式などの資産の値上がり益であるキャピタルゲインも運用果実として契約者に還元します。変額保険は、確定利回りではなく、運用実績次第で解約返戻金が変わりますが、長期に運用する場合にはインフレに強い保険といわれています。」と記載されている。

(7) 一〇頁は、複利の計算表とグラフであり、利率が五パーセントから二一パーセントまでの複利計算の結果がグラフ及び数値で示され、昭和四九年から六一年の東証第一部全銘柄平均複利年率は一四パーセントであるとの指摘がある。

(8) 一一頁は、平成元年八月八日付日本経済新聞に掲載された記事の拡大コピーである。右記事には、来年にも一時払養老保険と変額保険の機能をあわせもつ新しい貯蓄型保険が発表されるとの趣旨のもので、「変額保険は他の保険と別の勘定で株式や債券を売買。その都度運用成果を時価評価し、死亡保険金や満期金が増減する性格を持つため、<中略>変額保険の利回りは、八七年十月のブラックマンデー(株価暴落)でマイナスになった生保もでたものの、最近は各社平均して年一〇%前後に落ち着いている。」と記載されている。

(9) 一二頁は、本件提案書の結論であり、前記の相続税額からみて、提案書のプランの少なくとも倍の設定が必要であるとしている。

(二) 被告乙山は、同日、本件提案書に基づいて、原告太郎に対し、変額保険を使った相続税対策についての説明を行った。被告乙山の説明は、おおむね本件提案書の頁を操って、これにつきコメントを加えるという形式で行われた。

四頁の説明においては「いま利回りが高いですから単純な財テクと考えても有利」であるとし、「だいたい利回りが九パーセントですからね。」とし、五頁の説明においては、経過年数ごとの実質利益を「もうけ」と表現し、「変動保険金」につき死亡保険金が年数をとるごとに増えていると指摘している。また、七頁の説明においては、「解約した場合に、解約返戻金と借入金とを比べていただきますと、必ず解約返戻金の方が大きい。」、「大きいから必ずもうかる。」、「運用利回りを九パーセントでみていますが、いま運用利回りの一番高いところはエクイタブルが一五パーセント倍」、「大蔵省としては、九パーセントぐらい最低利回りでいくということですね。」とコメントした。また、一〇頁の説明として、変額保険の一応の利回りとして、前記の東証第一部の全銘柄平均複利年率である一四パーセントのグラフ線を示し、一一頁の日本経済新聞の記事については、その文章を読み上げたが、「各社平均して年一〇パーセント前後の実績で来ている」と述べたにとどまり、それ以上、特に変額保険のリスクについてコメントをすることはなかった。そして、最後に、一二頁の部分を読み上げた上、原告らの資産からすると、このプランの三倍くらいの保険料による変額保険の加入が相続税対策としては必要であるとコメントした。

原告太郎は、被告乙山の説明を受けて、「先生、だから、入れれば、正直言うと多ければ多いほどいいんでしょ?」、「危険があるとあれだけど、危険がなければ入れるんだったら何倍か入っておけば…」と問いかけると、被告乙山は、「ええ、危険があるものじゃないですからね。」、「ええ、いちばん有利なんですね。」と応じた。

(三) 被告乙山からこのような説明を受けた原告太郎は、同被告の説明を信用したが、この時点では、変額保険による相続税対策をとる最終的決断は示さず、とりあえず、これにつき前向きに検討する姿勢を見せ、保険会社の選定等の作業は被告乙山に一任するとの意向を示した。原告太郎は、支払保険料が高額にのぼり、かつ、これを融資金によってまかなうものであることから、家族と相談した上で被告乙山に連絡する旨を伝えた。

9 右の説明を終えた被告乙山は、同日、同被告の事務所に被告丙川及び菅井を招集し、それぞれに本件提案書の写しを交付するとともに、同日の原告太郎に対する説明の感触をもとに、原告太郎が変額保険に加入することはほぼ確実であるとの見通しで、今後の作業につき協議した。そして、従来の検討結果を踏まえて原告らが加入する変額保険の保険料が合計一二億円から一四億円になり、被告銀行からの融資も同程度になるとの見込のもとに、従来からの検討を踏まえて、加入する保険会社を、アリコ、被告三井、被告ニコス(当時は、エクイタブル生命)及び被告千代田とすることを相互に確認した。右四社を選択した理由は、アリコは、ベイスが代理店をしていたこと、被告千代田は、ベイスがその紹介代理店をしていたからであり、被告丙川の意見で選択した。また、被告三井及び被告ニコスに関しては、当時右二社の変額保険の運用利回りが高率であったからであり、被告乙山の意見で選択した。

この四社に対しては、被告丙川において、従来から接触しており、この前後の時期に順次契約締結及びベイスがそのとりまとめを行うことにつき改めて連絡し、各社の了解を得た。

なお、被告丙川は、この四社に対し、変額保険に関する説明は、同被告らにおいて行うので、各担当者は原告らに対し直接説明しないように要請していた。

10 菅井は、右の被告乙山からの説明を受けて、早速、従来からの報告をもとに被告銀行内部での協議を経た上、同年九月七日、原告太郎宅を訪問し、改めて、本件相続税対策をとるよう勧誘した。

すなわち、菅井は、本件提案書に示された被告乙山の案をもとに変額保険に加入することを前提として、その一時払い保険料を調達するために被告銀行から融資を受けることを勧めるとともに、融資金合計一四億円、融資期間は当面五年間(当然延長することがあることは予定されていた。)、利息は長期プライムレート連動の変動金利(当初利率年五・八パーセント)とする旨の被告銀行の案を提示した。

これに対し、原告太郎は、利率を下げるよう要請し、菅井も更に検討を約した。

菅井が帰行した後、原告太郎は、家族と最終的に相談し、その結果被告乙山の説明を信用して変額保険を利用した相続税対策をとることを決定し、その旨菅井に連絡した。

11 同年九月八日、菅井は、はじめて被告丙川を同道して原告太郎宅を訪問し、原告太郎に対し、被告丙川を各生命保険会社との契約を取りまとめる役割を担うベイスの担当者として紹介した。

菅井が被告銀行からの融資の見込を説明し、原告太郎はこれに応じる旨回答した。

また、被告丙川は、原告らが変額保険に加入する生命保険会社として前記四社を予定していること及び変額保険に加入する場合の手続について説明し、各社につき医務検査をすることについて原告太郎の了解を得た。

12 右の打ち合わせに基づいて同年九月九日(原告太郎、原告花子及び長女春子)及び同月一二日(長男一郎、次男二郎)の二日にわたり、池袋のサンシャインシティ内の診療所でアリコのための医務検査(健康診断)が行われた。

被告丙川は、アリコの代理店であるベイスの担当者として、これに立ち会った。なお、被告丙川は、被告乙山に対し、原告らの変額保険の加入手続の進行状況を随時報告していた。

13 同年九月一九日、原告太郎宅において被告ニコス、被告千代田及び被告三井の医務検査が実施され、原告太郎、原告花子、前記長男、次男及び長女が健康診断を受けた。その際は、右各保険会社の担当員は、各派遣医師を伴って原告宅を訪問していたが、被告丙川が全ての段取りを指図したため、各保険会社の立場での変額保険についての説明は格別行わず、検査の終了を確認したにとどまった。また、当日は、それぞれの医師が五名の被保険者に対して順次診断を行ったため時間的にもあわただしく、被告丙川からも変額保険の仕組み等につき説明がされた事実もない。

なお、被告丙川は、それまでの間に右四社の担当者から変額保険の設計書、パンフレット等を受けとっていたが、それらを原告らに交付した事実はない。

14 被告丙川は、同年九月二二日、当初加入予定であった保険会社から、アリコをはずし、これに代えて被告朝日とすることにつき原告太郎の了解を得た。その理由は、アリコの変額保険の運用実績が保険会社間では比較的下位にあり、より運用実績の良好な被告朝日の方が適当であると判断したことによる。被告丙川は、被告朝日に連絡して、その了解を得るとともに、同社から設計書等の資料を入手した。

15 その後、被告丙川と被告乙山の間で連絡をとり、別紙1保険契約目録該当欄記載のとおりの内容(保険契約者、被保険者、基本保険金額、一時払保険料額)で被告朝日、被告ニコス、被告千代田及び被告三井との間で、原告らが変額保険に加入すること、そして、菅井も、これを前提として、被告銀行から前記のとおり原告らに対して合計一四億四八九一万五〇〇〇円を融資することが事実上了解され、同月二八日頃までには被告乙山、被告丙川が同道して原告太郎にその旨を説明し、原告太郎もこれを受け入れた。

そこで、菅井及び被告丙川は、同年九月二九日頃、本件融資契約及び本件変額保険契約締結に必要な書類を持参して原告太郎宅を訪問し、原告太郎(本人又は原告甲野企業代表者として)及び原告花子が、被告銀行と原告らとの本件変額保険の保険料支払を目的とする本件融資に関する契約書及び被告朝日、被告ニコス、被告三井及び被告千代田の各変額保険の申込書にそれぞれ記入をした(契約の日付については前記のとおりとされた。)。

その際、菅井は被告乙山が作成した相続税対策の提案書と同一のもの(池袋支店とスタンプが押してある。)及び会社別引受け一覧と題する表)を原告太郎に交付した。

そして、同年一〇月二日、被告銀行から本件融資金が支出され、各変額保険の一時払保険料等の支払に充てられたことは、前記のとおりである。被告丙川は、同日、被告太郎に対し、右被告生保四社の変額保険約款を保険料の領収書と共に交付した。

16 なお、原告太郎の従来からの主要取引銀行は大和銀行であったところ、この頃、同銀行の担当者から被告銀行より有利な条件での融資の申出があったため、原告太郎は、本件融資のうち、原告甲野企業が、被告銀行から借入れていた三億三六一〇万円について、大和銀行からの融資に借り換えることとし、同年一〇月二日その手続を行った。その内容は、前記のとおりである。

17 被告乙山は、同年一〇月二三日、原告太郎宅を訪問し、原告太郎に対し、これまでに入った四社の変額保険のみでは、相続税の納税資金が不足すると指摘し、更に二社程度の変額保険に追加加入するよう勧告した。また、被告丙川も、同月三〇日、原告太郎宅を訪れ、同様に変額保険に追加加入することを勧誘した。原告太郎は、この勧めが従来から被告乙山の説明に沿ったものであったため、これを受入れ、更に二社の変額保険に加入することを決意し、被告乙山らにその選定を委ねた。被告乙山は、従来から親交のあった外交員の所属する被告明治を選択し、被告丙川は、被告住友に連絡をとって了解を得て、結局、原告太郎及び原告甲野企業が追加加入する保険会社は、被告明治と被告住友とすることが了解され(その内容は、別紙1保険契約目録のとおりである。)、原告太郎もこれを受入れ、保険料支払のための資金は、大和銀行から融資を受けることとした(大和銀行からの融資については、前記認定のとおりである。)。

被告明治の担当者は、被告乙山の関係者が原告太郎に対する説明をするということであったため、同年一一月のはじめ頃、被告乙山に対し、変額保険の申込書、設計書、しおり・約款を届け、原告太郎らに交付することを依頼した。被告住友の担当者は、その頃、被告丙川に設計書等を交付した。

18 同年一一月一三日、被告住友及び被告明治の診査医が原告太郎宅を訪問し、原告太郎及び原告花子は、被保険者として、変額保険加入のための医務検査を受けた。当日は、被告丙川のほか被告住友の担当者も同行し、原告太郎から申込書に署名押印を受けて、これを受領した。被告住友の担当者は、その際、原告太郎に変額保険の「契約のしおり・約款」を交付したが、原告らに対し格別変額保険に対する説明はしていない。被告明治の担当者は、翌一四日、被告乙山から原告太郎及び原告花子の署名押印のある申込書を受領した。

19 原告らが、被告生保各社への手続を全て済ました後の同年一一月頃、被告丙川は、菅井を通じて被告乙山に対し、ベイスとして今回の被告乙山の尽力に対する手数料として二二〇〇万円余りを支払いたいとの申出をした。被告乙山は、右申出をいったん断ったが、どうしても受領して欲しいとの被告丙川の要請を受けて被告銀行の幹部と相談した結果、被告銀行の提案に従い、次のような操作をすることによって、被告乙山は実質的に右手数料を被告銀行に還元することになるように処理した。すなわち、<1>被告乙山は、被告銀行の関連会社である芙蓉リース株式会社から短期間五〇億円の融資を受ける、<2>右融資金は、そのまま被告銀行への定期預金として預け入れる、<3>右芙蓉リースからの融資に対する利息相当額(約三七〇〇万円)を被告銀行から借入れて支払う、<4>被告銀行に返済すべき右借入金元本及びこれに対する利息相当額は、被告乙山がベイスから支払を受ける手数料相当額(ただし税引後)と被告銀行から受領すべき定期預金利息の合計額とほぼ同額となる。

20 被告乙山は、平成二年九月ころ、原告太郎からの相談に応え、変額保険の運用が思わしくないので、当面の措置として、各保険会社から契約者貸付を受け、銀行からの借入金を返済して様子を見た方がよいとのアドバイスをした。そこで、原告太郎は、右アドバイスに従い、前記のとおり、その頃被告生保各社から契約者貸付を受け、大和銀行及び被告銀行からの借入金の一部を返済した。原告太郎は、被告乙山や菅井等に対し、変額保険の運用利回りが当初の予想より低かったことについて、格別クレームを述べていない。

また、その後、原告らが本件各変額保険契約を解約して、解約返戻金を受領し、これらをもって、大和銀行及び被告銀行からの借入金を返済したことは前記のとおりである。

この間、被告乙山は、平成三年四月ころ、原告太郎に対し、従来の説明の経緯につき説明に訪れたが、原告太郎は、被告乙山の説明が要領を得ないものと判断し、その頃被告乙山との前記税理士顧問契約を解除した。

五  以上の事実認定に関連して、これと異なる当事者の主張につき判断する。

1 本件相続税対策についての原告太郎の積極性について

(一) 被告銀行は、本件のような変額保険を利用した相続税対策をとることにつき積極的な態度をとったのは、日経マネー誌に掲載された記事を読んでいた原告太郎の方であり、菅井は、これを知らず、これに詳しい被告乙山を紹介したにすぎない、また、被告乙山は、原告太郎からの説明依頼に応じて、説明したにすぎず、被告乙山の側から積極的に勧誘ないし募集したものではない、原告は、変額保険を利用した相続税対策をとることを、被告乙山に対して具体的に依頼する前に決定していた、と主張する。

(二) そこで、検討するに、証人菅井、被告乙山及び被告丙川は、本件変額保険勧誘当時、原告太郎が日経マネー誌を読み、財テクに強い興味を有していたとの趣旨を供述し、同人らの陳述書にもこれに沿う記載がある。

しかしながら、原告太郎は、これを強く否認しているところ、前記認定したところによれば、原告らは、アリコの変額保険に加入することを前提として、アリコの医務検査を受診しているが、当時の日経マネー誌の変額保険運用のランキングによれば、アリコの変額保険の運用実績は、相対的に低位にあることが明らかである。本件で当初アリコの変額保険に加入することが予定されたのは、ベイスがアリコの代理店であったためであって、その運用実績は考慮されていない。原告太郎が日経マネー誌を購読し、これを前提として菅井に話を持ちかけたとすれば、アリコの変額保険に加入することにつき何らかの反応があるのが通常であるが、これを窺わせる事実は見当たらない。

また、当時、被告銀行は、ベイスから変額保険を含む顧客紹介の依頼を受けており、その見返りとして協力預金が予定されていたこと、被告銀行としても、変額保険の保険料支払のため融資は、極めて望ましい取引であることを考慮すると、被告銀行の担当者である菅井がこの種取引につき無知であったことは想定し難いものがある。更に、弁論の全趣旨により、平成四年一二月一二日、被告乙山と原告太郎及び原告らの弁護士である安彦和子弁護士との会話を録音した録音テープと認められる《証拠略》及びその反訳書である《証拠略》によれば、右会談の際、被告乙山は、菅井から被告乙山に対し、原告太郎に変額保険を用いた相続税対策について説明するよう強い示唆があったことを認めていることが明らかである。

(三) これらの事情を総合すると、当時、原告太郎が日経マネー誌を読んでおり、これを前提として菅井らに説明を要求したと認定するのは相当でなく、前記認定のとおり、この相続税対策につき一定の認識を有していた菅井の方からこれを紹介したのを契機として原告太郎が興味を持ち、原告太郎と菅井の要請により被告乙山が本件提案書を作成するに至ったとみるのが、むしろ、自然である。

そして、前記の事実認定のとおり、原告太郎が変額保険を利用した相続税対策をとることを決断したのは、被告乙山の説明を受け、その結果に基づくものと認めることができる。

2 被告銀行担当者菅井の関与について

(一) 次に、原告らは、菅井は、被告銀行の営業担当者として、原告太郎に対し、原告らは所有不動産を担保提供するだけで、保険料の支払やその後の利息の処理などは銀行からの融資で一切を賄えるので、原告らの手元から一銭も出す必要がないこの上ない相続税対策である、と説明し、かつ、被告乙山及び被告丙川に指示して強力に勧誘し、各変額保険の加入手続をとった、と主張する。

(二) 菅井が、原告太郎に対し被告乙山を紹介し、また、生命保険会社のとりまとめ役としてベイスを関与させるように行動したことは前記認定のとおりである(この菅井の関与をどの程度重視すべきかについては、後に判断する。)。

しかし、菅井自らが、原告太郎に対し、原告ら主張のような文言を用いて変額保険の加入、融資契約の締結を働きかけたことについては、原告太郎の供述(供述書を含む。以下同じ。)に詳細であるが、菅井はこれを否定する供述をしていること、前記認定のとおり、菅井は、変額保険の内容について無知であったとはいえないにせよ、その説明自体については、専門家である被告乙山及び被告丙川に委ねる姿勢を示していること(九月五日の説明においても菅井は被告乙山に同道していない。)が認められること等に照らし、右の原告太郎の供述は直ちには採用し難いものがあるというべきである。

したがって、菅井が原告ら主張のように説明して、原告太郎に対し変額保険の加入、融資契約の締結を勧誘したとまでは認めるに至らない。

3 被告乙山の説明について

(一) 被告乙山は、原告太郎に対し、変額保険の仕組みについて随時説明したし、特に、平成元年九月五日には、自ら作成した本件提案書を原告太郎に渡し、一枚一枚めくりながら詳細に説明していった、すなわち、右提案書には「変額保険が利息、配当などのインカムゲインのみでなく株式などの資産の値上がり益であるキャピタルゲインも運用果実として契約者に還元します。」との記載があり、これに基づいて、変額保険が定額保険のように確定利回りではなく、基本的に株で運用されていること、株が上がれば運用実績が上がるし、株が下がれば損をすることを説明した、また、変額保険のリスクを説明するため、わざわざ「変額保険の利回りは、八七年十月のブラックマンデー(株式急落)でマイナスになった生保もでた」との記載のある日本経済新聞の記事を添付し、右記事にもとづいて原告太郎に詳しくリスクを説明したと主張し、被告乙山本人の供述(陳述書を含む。)においてその旨繰り返し供述する。

同日以前の時点での被告乙山の説明は、単に口頭のものであって、右期日の説明以上に詳細であったことを認めるべき証拠はないから、被告乙山のした説明内容としては、右期日の説明に則して検討すれば足りるものと考えられる。

(二) 前記の九月五日における被告乙山の原告太郎に対する説明部分の認定は,原告太郎本人の供述のほか、主として甲九一号証の一及び二に基づくものである。

甲九一号証の一は、被告乙山が同月五日に原告太郎に対し変額保険の説明をした際の録音テープとして提出された。その録音テープの内容は、おおむね、同号証の二の反訳書のとおりと認められる。そして、右録音テープの内容及び弁論の全趣旨によると、原告ら提出の右録音テープが、九月五日に行われた被告乙山と原告太郎の会話を最初から最後まで録音したものであることは明らかである。

また、原告本人の供述は、ほぼ右の録音テープの内容に符合するものであることは、これらを対比すれば明白である。

これらによると、当日の被告乙山と原告太郎の会話のやりとりは、前記認定のとおりに認められるのである。

被告乙山は、本件提案書の「変額保険がインカムゲインのみでなく株式などの資産の値上がり益であるキャピタルゲインも運用果実として契約者に還元します。」との記述に基づき、その具体的意味について前記のとおりに説明したと供述したが、録音テープにそのような発言を見出すことはできない。

また、被告乙山は、日本経済新聞の記事に則して、詳しくリスクを説明したと供述するが、録音テープによれば、被告乙山は右の文章をただ読み上げているにすぎず、その前後の会話との関連でみれば、むしろ、ブラックマンデーを経験したものの、それにもかかわらず、一〇パーセント前後の実績を維持しているとの印象を与える説明となっている。

更に、被告乙山は、変額保険の運用利回りを九パーセントとすることはあくまで仮定の上であると説明したと供述しているが、九パーセントの表現についての説明は前記認定のとおりであって、むしろ、最下限であるとの印象を与えるものであり、あくまで仮定の上での設定であるとの趣旨の発言を発見することはできない。

以上の次第で、同月五日における被告乙山と原告太郎との会話は、前記認定のとおりであって、これに反する被告乙山の供述は、真実に反するものとして採用することができない。

4 被告丙川の説明について

(一) 被告丙川及び被告ニコスは、被告丙川は、原告太郎に対し、折々変額保険のリスクにつき説明してきたが、特に平成元年九月一九日に詳細に説明した、すなわち、被告乙山が作成した本件提案書を受領し、検討したところ、運用利回りを九パーセントとして計算しても、変額保険加入三年目までの運用益が、借入元利金を下回るリスクが生じることの説明が不足していると考えて、自らその欠点を補う説明書を作成し、同月一九日、医務検査の空き時間を利用して原告太郎に説明した、また、右説明の際には、変額保険の運用利回りを九パーセントとしているのは、仮定の話であり、これに伴うリスクについても説明した、更に、被告ニコスの変額保険は、特別勘定について、日本株式型、米国株式型、金融市場型の選択ができるが、リスク分散のため、日本株と米国株を半分づつにしたらどうかと説明したところ、原告太郎は了承したと主張し、被告丙川は、これに沿う供述をしている。

(二) そこで、これらにつき検討する。

(1) まず、同月一九日より前に、被告丙川が、原告太郎に対し、変額保険について説明をしたかであるが、初対面である同月八日(菅井から紹介された日)において、被告丙川が何ら説明をしなかったことは、被告丙川自身がそのように供述していること自体において明白といわなければならない。同月九日の医務検査において、被告丙川が何らかの説明をしたと認めるに足りる証拠は見当たらない。

(2) 次に、肝腎の同月一九日についてであるが、当日は、前記のとおり、被告ニコス、被告千代田及び被告三井の医務検査が実施された日である。検査対象者は原告太郎等五名であり、原告太郎の供述及び弁論の全趣旨によれば、検査は自宅の応接間で実施され、対象者の一人が医師と対面して検査中は、他の者は私室で待機し、被告丙川ほか被告保険会社の担当者は応接室の外にいるほかなかったことが認められる。

記録に照らすと、被告ニコス及び被告丙川の、被告丙川が原告太郎に対してした説明に関する当初の主張は、被告丙川は、原告太郎と初対面である同月八日に面接した際に、変額保険の仕組み及びリスクについて説明したというもので、同月一九日に説明したとの言及はなく、かえって、同月一九日には、被告丙川ではなく、被告ニコスの担当者において原告太郎にパンフレット、設計書等を示し、必要な説明をしたとの主張がされている。また、被告丙川自身の陳述書においても、同月一九日に自らが説明したとの記載はなく、かえって、当日は被告ニコスの担当者がパンフレット類を交付し、説明をしていたとの供述がされているのである。

(3) 乙ハ一八号証の一ないし三の体裁は、三枚綴りで、一枚目は、今後一〇年間の相続税の予想、二枚目、三枚目に運用利回りを九パーセントとした場合の解約返戻金、実質利益、納税資金カバー率等が記載されている。一枚目には、更に、被保険者を、原告花子、長男、長女及び次男とし、保険料を九(億)九〇五九万円とする記載が、二枚目には、左上に「父―全相」と手書された上、保険料は九(億)九〇五九万円とする記載が、三枚目には、左上に「父―父」と手書された上、保険料は四(億)八三〇九万円と、各記載されている。これらの書面の体裁からみると、一、二枚目の保険料九(億)九〇五九万円は、保険契約者を原告太郎、被保険者を原告花子、長男、長女及び次男とした場合の保険料の合計額であり、三枚目の保険料四(億)八三〇九万円は、保険契約者を原告太郎、被保険者を原告太郎とした場合の保険料の合計を表しているものと認めることができる。他方、菅井が、同年九月二九日に原告太郎に交付した前記会社別引受け一覧(保険会社としては当初予定のアリコに代えて被告朝日が記載されている。)では、被保険者、保険契約者をいずれも原告太郎とした保険料の合計が四(億)八三〇九(万)四〇〇〇円であり、被保険者を原告花子、長男、次男及び長女とし、保険契約者を原告らとした保険料の合計は九(億)九〇五八(万)七〇〇〇円とされている。

この金額の千円単位を四捨五入すると、いずれも乙一八号証に記載されている前記金額と一致することは明らかである。

ところで、《証拠略》によれば、被保険者を原告花子、長男、長女及び次男とした場合のアリコの保険料合計は、被告朝日のそれと比べて一二五六万七〇〇〇円低額であることが認められるから、右の保険料額の記載からみて、乙ハ一八号証の一ないし三は、被告保険会社がアリコから被告朝日に変更された後に作成されたものと認めざるを得ない(変更前のアリコを前提として作成されたとすれば、その保険料合計額は右金額だけ低い額が記載されていなければならない。)。

そして、アリコから被告朝日に保険会社を変更することが決定されたのは、前記認定のとおり同月二二日であるから、乙ハ一八号証の一ないし三が作成されたのは、同日以降であり、したがって、被告丙川が同月一九日に原告太郎宅を訪問した際に、乙ハ一八号証は作成されていたと認めることはできないのである。

この点に関し、被告丙川及び被告ニコスは、アリコから被告朝日に保険会社を変更したのは、従来主張していた同月二二日でなく、同月一四日であったと主張を訂正し、かつ、同趣旨の被告丙川の陳述書を提出する。

しかし、被告丙川が当初の供述を変更する合理的理由は見当たらないし、アリコの保険代理店であるベイスとしては、なるべくアリコの保険契約の成約をはかるのが当然であるのに、アリコの健康診断を同月一二日に実施し、その結果が判明してもいない同月一四日の段階で、保険会社を変更することも不自然といわざるを得ないから、右証拠及び主張は採用することができない。

(4) 以上の事実関係、すなわち、同月一九日当日の医務検査の実施の物理的状況からみて、被告丙川が原告太郎に対し、その主張のような説明を加える時間的余裕があったとは考えにくいこと、被告丙川の主張からしても、同月一九日に自ら説明したとの言及はなく、一貫性に欠けること、被告丙川が当日説明に用いたとされる乙ハ一八号証の一ないし三は、その記載内容からみて、当日以降に作成されたと認めることができるのであって、被告丙川の供述は採用することができないこと等を総合すると、同月一九日に乙ハ一八号証の一ないし三を用いて、原告太郎に変額保険の説明をしたという被告丙川及び被告ニコスの主張は採用できず、他に、被告丙川が原告太郎に対し変額保険の仕組み等につき説明を加えたことを認めるべき証拠は見当たらない。

5 被告三井の説明について

(一) 被告三井は、被告三井の担当者(真壁和子)が、平成元年九月一九日の健康診査の日に原告太郎宅を訪問して、原告太郎に変額保険の設計書、パンフレットを交付し、変額保険の仕組み及びリスクを説明したと主張し、証人真壁和子の証言もこれに沿う。

(二) しかしながら、真壁の証言内容自体も、当時の記憶としてはっきり残っているわけではなく、一般的に変額保険を勧誘するときは、設計書やパンフレットを用いて仕組みを説明しているはずであるというにすぎないし、前記のとおり、同月一九日は、多数の健康診査を原告太郎家族が受診しなければならず、保険会社の担当者がじっくりと説明を行う時間はなかったと推認するのが相当であること、本件変額保険勧誘の手続は被告丙川が取り仕切っており、他の生命保険会社の外務員も個別に説明をする機会が与えられていなかったことが認められることからすれば、被告三井のみが原告太郎に変額保険の仕組み及びリスクを説明したとの趣旨に帰する右証言は、直ちに採用することはできず、他に、被告三井の主張を認めるに足りる証拠はない。

6 追加加入の勧誘について

(一) 被告乙山及び被告丙川は、原告らが変額保険に追加加入(被告明治及び被告住友)したのは、被告乙山ないし被告丙川が勧誘したからではなく、原告太郎から追加加入したいとの積極的申入れがあったからであると主張し、被告乙山及び被告丙川の供述はこれに沿う。

(二) しかしながら、前記認定のとおり、乙ハ一八号証の一ないし三は、九月一九日の時点で作成されたとは認められず、その記載内容からみると、原告らが第一回目の変額保険加入後に、変額保険加入の効果を示すために作成されたものと推認できるところ、乙ハ一八号証の二は、被保険者を相続人、保険契約者を原告太郎としたものであるが、相続税対策後の納税資金カバー率が、五年目九二パーセント、一〇年目八五パーセントと記載されている。そして、原告太郎は、被告丙川が右納税資金カバー率を示し、第一回目の変額保険の加入では、長期的に相続税対策として不十分であるとして追加加入を勧めたと供述するところ、右供述は、乙ハ一八号証の二の記載とも一致している。被告乙山が本件提案書のプランの三倍位の保険料による変額保険に加入する必要があるとのコメントをしていたことは前記のとおりである。

このような事実関係を総合すると、前記認定のとおり、本件変額保険を追加勧誘したのも被告乙山及び被告丙川であると推認するのが相当である。

六  被告らの不法行為責任について

1 被告ら相互の関係

前記の事実関係を総合すると、本件に関連する被告ら相互の関係は、次のとおり認めることができる。

(一) 被告銀行とベイスとは、平成元年五月頃から、被告銀行がベイスに対し法人の定額保険及び変額保険に加入する見込のある得意先についての情報を提供することの見返りとして、ベイスが被告銀行に対し一定の預金協力をすることを内容とする協力関係にあった。被告銀行が自らの顧客である原告らをベイスに紹介し、その結果として被告丙川が本件に関与するに至ったのは、このような協力関係があったからである。

(二) また、被告銀行は、担当者の菅井を介し、原告太郎に対して、かねて親交のあった税理士・公認会計士である被告乙山を紹介し、更に、菅井の提案を契機にして原告太郎が興味を示した変額保険を利用した相続税対策につき、税務の専門家である被告乙山に説明してもらうことを提案した上、被告乙山に対し、当初は口頭で、後には文書を作成して原告太郎に説明するよう依頼した。

なお、被告銀行は、ベイスから本件に関して支払われた手数料の受領を辞退する被告乙山の相談に応じて、自らの関連会社からの短期融資を介在させる一定の操作を加えることにより、その利益を実質的に収受した。

(三) 被告乙山は、被告銀行の紹介により原告太郎らの税務顧問となったが、かねてから変額保険を利用した相続税対策につき研究を重ねていたこともあり、菅井の依頼によって原告太郎に対しこれを説明することを承諾し、当初は口頭で、後には菅井及び被告丙川から資料の提供を受けて作成した本件提案書を用いて詳細に説明を加えた。

また、被告乙山は、被告銀行の紹介で本件に関与するようになった被告丙川と協議して、原告らと変額保険契約を締結すべき具体的生命保険会社を選定し、変額保険契約の被保険者、基本保険金額、保険料等具体的内容を定め、また、被告銀行と融資の内容について打ち合せをした。

(四) 被告丙川は、ベイスの担当者として、右の協議に基づいて選定された被告生保各社の担当者と折衝し、原告らと各社との変額保険契約に関する具体的内容につき事実上打ち合せを遂げ、各担当者から各社の変額保険に関するパンフレット、設計書等を預かり、各社のする医務検査の期日を調整してこれに立会し、また、各変額保険契約締結に必要な書類を預かって原告太郎らに署名押印させて、各担当者に交付した。ベイス、すなわち被告丙川のしたこの労力に対し、被告生保各社から手数料の支払があり、その一部は被告乙山に提供され、これを最終的には被告銀行が実質的には収受したことは前記のとおりである。

(五) 被告生保各社は、右のような経緯で本件各変額保険契約の締結に至った関係から、原告太郎に対する実質的接触は、ほとんど被告丙川らに委ねて自らは直接行うことなく、パンフレット、設計書等も被告丙川らに交付したにとどまる。被告生保各社の担当者が原告太郎に会ったのは、医務検査の際に短時間、挨拶程度であるにすぎない。

2 被告銀行について

(一) 原告らは、原告太郎は、被告乙山のほか、被告銀行の営業担当である菅井から、前記のように本件相続税対策をとることにつき絶対損をすることはないと説明勧誘されたからこそ本件融資契約及び本件変額保険契約を締結したものであり、菅井の行為には募取法、本件通達、銀行法違反ないし調査義務及び説明義務違反等の違法があると主張する。

(二) 菅井が本件に関与した経緯及びその具体的行為は、前記認定のとおりであって、原告ら主張のように菅井が原告太郎に対し、原告らは所有不動産を担保提供するだけで、保険料の支払やその後の利息の処理などは銀行からの融資で一切を賄えるので、原告らの手元から一銭も出す必要がないこの上ない相続税対策であるとの趣旨を説明して勧誘したとの事実を認めるに至らないことは既に説示したとおりである。

(三) 本件のように、銀行からの融資を前提として変額保険契約が締結される場合には、変額保険契約とその保険料支払いのための融資契約とは、事実上密接な関係があることは明らかであるが、元来、変額保険契約と融資契約では、契約当事者も契約の内容も別々であり、その契約自体の目的も異なるものであること、原則として、融資金の返済は借主の責任であり、銀行は資金の使途につき責任を負う立場にないこと等からすれば、銀行が自ら主導的、積極的に変額保険を利用した相続税対策の採用を提案、説明し、これを勧誘したというように、右相続税対策が採用されるにつき銀行の果たした役割がその関与の程度において特に重要であると認められる特段の事情がない限り、銀行の担当者としては、たとえ、融資金の使途が保険金の支払であることを認識していたとしても、一般的には融資の内容について適切な説明をすれば足り、それ以上に変額保険自体について、その仕組み等につき具体的な説明をするまでの義務は負わないものというべきである。

そして、本件における菅井の関与の程度は、前記のとおりであって、確かに、当初菅井が右の相続税対策を原告太郎に紹介したことはあるにしても、その後の前記行動は、基本的には原告太郎に専門家である被告乙山及び被告丙川を紹介し、変額保険についての具体的な説明及び勧誘は、同被告らに委ねていたということができ、菅井自らが彼らと共同して、あるいは、主導的、積極的に変額保険の勧誘をしたということはできない。そうすると、前記の説示に照らし、菅井は、被告銀行の担当者として、本件融資契約についての具体的条件等について説明すれば足り、変額保険及びこれを利用した相続税対策についてまで具体的に説明義務を負うものではないというべきである。

以上によれば、菅井は、本件変額保険の募集をしたということはできないから、募取法違反及び銀行法違反をいう原告らの主張はその前提を欠き、また、変額保険及びこれを利用した相続税対策についてまで具体的な説明義務を負うものでないと解される以上、菅井に原告らの主張する内容の説明義務違反(その前提をなすと解される主張の調査義務違反を含む。)があるということもできない。

なお、原告らは、菅井が原告太郎に対して断定的判断の提供をしたとも主張するが、右事実を認めるに至らないことは前記説示のとおりである。

(四) 原告らは、更に、菅井には、融資銀行の担当者として、原告太郎の平均余命一五年後まで本件融資金である一四億八四〇〇万円を金利五・八パーセントで融資できる可能性、その場合における利息合計額、被告各社の変額保険の予定利率により算出される保険金及び解約返戻金の合計額、右合計額で本件融資元利金を回収できる見込を調査し、これを前提として、本件融資の元利金合計は、三六億二六二八万円余となり、被告生保各社の予定利率による保険金及び解約返戻金では、右元利金を支払えなくなることを説明する義務があったと主張する。

しかし、前記のとおり、融資契約と変額保険契約とは本来別個の契約なのであるから、菅井としては、融資契約の内容についてのみ説明すれば足りるのであって、それに加えて、原告主張のような本件変額保険に関連した調査義務及び説明義務を負うものではないというべきであるから、原告らの主張は採用できない。

(五) 以上によると、菅井には被告銀行の担当者としての義務違反があったと断定することはできないから、菅井の行為をもって、被告銀行が不法行為責任を負うとする原告らの主張は採用することができない(被告銀行が被告乙山に提供された手数料を実質的に取得した前記認定の経緯に不明朗なものがあることは、否定できないが、当初から被告生保各社から提供される手数料を被告銀行に分配するについての合意があったことを認めるに足りる具体的な証拠が見当たらない本件にあっては、右取得の事実があるからといって、被告銀行が本件に関し、主導的、積極的役割を果たしたものであり、後記の被告乙山等のした説明を被告銀行がしたと同視できると認めるまでには至らないというべきである。)。

3 被告乙山について

(一) 変額保険契約の締結に当たっては、まず、顧客自身が保険会社ないし生命保険募集人が提供する情報等を参考に、自らの責任において当該保険の仕組み、危険性の有無、程度等について判断すべきものである。したがって、変額保険の募集、販売等については、前記のとおり募取法による規制のほか、通達による行政指導等及び生命保険業界の自主規制措置が採られているが、生命保険会社等がこれらの公的規制等に違反することがあったとしても、取締法規違反、大蔵省ないし生命保険協会に対する遵守事項義務違反等の問題が生じることがあるのはともかく、そのことによって直ちに変額保険契約の私法上の効力が影響を受けたり、生命保険会社等の不法行為責任が成立するわけではない。

しかし、前記のとおり、変額保険は、昭和六一年から販売された新しい種類の保険であり、払込保険料の一定部分を除いた残部が特別勘定に組入れられて株式等の有価証券に投資されて運用され、その実績に応じて保険金、解約返戻金を変動される仕組みの保険で、資産運用の成果もリスクも契約者に帰属する点において、従来の定額保険と大きく異なる特徴を有し、運用実績次第では、大きな利益を生むことが期待できる反面、場合によっては、保険金、解約返戻金が当初払い込んだ保険料額を大きく下回る危険性をも有するものである。

そして、このような変額保険の特徴に鑑みると、変額保険の締結に関しては、顧客保護の要請が特に強いと考えられるのであり、その要請を満たすために、募取法の規制に加え、前記のとおりの本件通達や生命保険業界の自主規制措置が採られているものであることは明らかであるから、このような事情を考慮すると、生命保険会社等が変額保険の募集・勧誘をする場合には、これらの各種規制を遵守すべきことはもとより、信義則上、契約者に対し、変額保険の概要、仕組みを説明するだけでなく、その有利性のみならず、そのリスク、すなわち、資産運用のリスクは契約者に帰属し、解約返戻金については最低保証がないことについて、契約者の年齢、経歴、社会的地位、財産状態、経済知識、投資経験、理解能力等に応じて、具体的に説明すべき義務があるというべきであり、その場合の説明の方法、程度については、単にパンフレット類等を交付したり、抽象的一般的な説明をするだけでは足りず、適切な資料等に基づき、相手が理解できる程度に、口頭での具体的な説明が行われる必要があるというべきである(そして、前記認定の各保険会社が前記自主規制に沿って作成したパンフレット、しおり、約款、設計書等は、これが適切な解説付きで利用されるのであれば、右説明の補助手段として必要な情報を含むものと評価できるものである。)。

そして、本件のように、保険料を銀行からの融資で調達して一時に払い込んで相続税対策とする場合には、融資額も多額にのぼり、変額保険の運用実績如何によっては、銀行からの借入金利が運用実績を上回り、利息債務が累積して、解約返戻金では融資元利金を支払いきれない事態も生じうること、そして、変額保険を利用した相続税対策の仕組みが一般にはなかなか理解しにくいものであることからすると、右の説明義務は一層励行されるべきものというべきであり、このような形態を予定して変額保険の募集・勧誘をする場合においては、どのような場合は有効な相続税対策になり、どのような場合にならないか、すなわち、相続税対策の有効性についても説明義務が及ぶべきものといわなければならない。

確かに、前記のとおり、平成元年当時の社会経済情勢は、株価や地価といった資産価値が急上昇しており、今日のように、いわゆるバブル経済の崩壊に伴い、急激な資産価値の下落を招来することを予測することは極めて困難であったとはいえるであろう。そして、顧客自身が、資産価値の下落による不利益を甘受すべきであることは、前記の自己責任の原則からいって当然のことである。しかし、顧客に投資に対しリスクを負わせる前提としては、これを勧誘する者が、顧客に対し、そのリスクを判断するために必要かつ十分な情報を、判断可能な程度に具体的に提供することが不可欠の条件であることはいうまでもないのである。

(二) 被告乙山と他の被告らとの関係、及び被告乙山が原告太郎に対して変額保険及びこれを利用した相続税対策について説明をするに至った経過は、前記認定のとおりである。

そして、これらの事実によれば、本件において、被告乙山が、被告銀行から保険料相当額の融資を受けることを前提として原告太郎に対して本件変額保険の勧誘・募集に該当する行為をしたものであることは明白であり、被告乙山も、当然にこのことを認識していたと推認できるものというべきである。

そうすると、被告乙山は、右に当たり、原告太郎に対し、前記のとおりの内容の説明義務を負っていたものというべきである。

この点に関し、被告乙山は、生命保険募集人でなく、保険を勧誘する権限も義務もなく、何らの利得も得ていないから、変額保険についてのリスクを説明すべき義務はないと主張するが、同被告が客観的に変額保険の勧誘・募集に該当する行為をしたものである以上、右の義務を免れないものというべきであるから、右の主張は採用できない。

なお、原告らは、被告乙山(被告丙川についても)に関し、相続税対策としての変額保険の加入と融資契約を勧めるに当たっては、調査義務及び説明義務を負担しているとして、その内容について前記のとおり詳細な主張をしているが、以下においては、前記説示に照らし必要な限度で検討するにとどめる。

(三) 被告乙山のした説明の相当性について

(1) 被告乙山が原告太郎に対して行った説明の内容は、前記認定のとおりである。

(2) 右によると、被告乙山は、税務関係につき専門的知識を有する者として、原告太郎に対し、被告生保各社らが作成した変額保険に関するパンフレット、設計書等の文書(これらは、被告丙川の手中に在ったものであるから、被告乙山が入手することも容易であったと推認される。)を用いることなく、平成元年九月五日より前の時点では口頭で、同日は、自らが作成した私製の本件提案書を用いて説明したものである。

そして、同日より前の口頭説明が同日の説明より詳細であったことを認めるべき証拠のないことは前記のとおりであるし、本件提案書には、前記した変額保険の仕組み、特徴、すなわち、変額保険は、払込保険料の一部を除いた部分が特別勘定として独立に管理され、これが主として株式等の有価証券に投資運用され、その運用実績に基づいて保険金額や解約返戻金が変動すること、これまでの定額保険と異なり、これらの運用実績による成果もリスクも契約者に帰属することに関する何らの記載もない。被告乙山が、口頭でこれに沿う説明を加えた形跡もない。

(3) また、本件提案書の記載及びこれについての被告乙山のしたコメントは、前記のとおりであって、変額保険を利用した相続税対策の有効性を強調し、変額保険の運用利回りを九パーセントとして経過年数ごとの累計利息等を記載した上、実質利益が常にプラスとされている試算表及び東証第一部の全銘柄の運用実績が一四パーセントであることを示すグラフ等を掲げ、九パーセントくらいの運用利回りは変額保険の運用として控えめの数値であり、解約返戻金の額は常に借入金額を上回っており、総じて、危険なものではないとの趣旨を強調する内容となっていることは明らかである(被告乙山がリスク説明をしたと主張して指摘する部分につきその主張のような説明がされたとはいえないことは、既に説示したとおりである。)。

(4) これらの事実を前記説示に照らして総合的にみると、被告乙山が原告太郎に対し、変額保険の概要、仕組みのほか、その有利性のみならずそのリスクについて信義則上要求される十分な説明をしたと認めることはできず、かえって、同被告は右説明を怠ったものと認めるべきである。

(5) 被告らは、原告太郎の経歴、投資経験等からみて、原告太郎には十分な知的能力があり、被告乙山らのする説明を十分に理解し、変額保険のリスクを認識した上で各変額保険に加入したとの趣旨の主張をしている。

しかしながら、被告乙山による説明(なお、被告丙川及び被告生保各社の担当者による説明がされたと認められないことは後に説示するとおりである。)が、前記説示からみて客観的に不十分であり、かえって、同被告が前記説明義務を怠ったものである以上、被告らの義務違反の事実を否定することは許されない。

もっとも、被告乙山らの不十分な説明にもかかわらず、原告太郎が現実に変額保険の前記のようなリスクを認識した上で本件各変額保険契約を締結したとすれば、結果的に被告らの不法行為責任は否定されることになるが、そのように認めることのできないことは、前記認定事実に照らし、明らかである。

なお、被告らの主張に照らし、念のため付言すると、原告太郎の経歴、投資経験、資産状況等については、前記認定したとおりであり、原告らは、多額の資産を有し、原告太郎は、公務員生活を終えたのち、資産管理会社の代表取締役に就任し、また、所有土地にビルを建設する計画を立てたり、若干の金取引や転換社債取引を行ってもいたというのである。

しかし、これらの経歴等は、原告太郎が一般人と比較して格別知的能力が高かったことを基礎付けるものとはいえない。すなわち、本件変額保険勧誘当時、原告太郎はすでに六七歳に達していたし、法務省等での勤務経験といっても、一般人以上に特別高度の知識、経験を要求される職種であったとはいえず、また、金取引や、転換社債取引の経験があったとはいっても、これはことさら投資経験として特別視するほどのものではない。要するに、原告太郎は、一定の資産を有し、通常の知的能力に欠けるところはないけれど、ごく普通の通常人というべきで、一般人と比べて格別変額保険に対する理解能力に優れていたと認めることはできない。そして、このような原告太郎の変額保険に対する理解力からみて、前記のように被告乙山が変額保険について説明していた状況下において、原告太郎が、変額保険のリスクを認識した上、本件各変額保険に加入したと認めることはできないのである。

結局、被告らの主張は、採用することができない。

(四) その後、被告乙山が原告太郎に対し、更に二社の変額保険に加入することを勧誘し、原告太郎がこれに応じて被告明治及び被告住友の変額保険に加入することになった経緯は、前記認定のとおりである。そして、その際、被告乙山が変額保険のリスクに関する説明を補充したことを認めるべき証拠はないから、結局、被告乙山としては、この二社の関係においても説明義務を怠ったものというべきである。

4 被告丙川について

(一) 被告丙川の所属するベイスが本件に関与するに至った経緯及びこれに関連して被告丙川が他の被告ら及び原告らに対してとった行動は前記のとおりである。

これらの事実関係(特に、被告生保各社をとりまとめる立場に立ち、各社の担当者に対し、原告太郎に直接説明することを控えるように要請していたこと)によれば、被告丙川は、被告明治を除くその他の被告生保各社の関係において(前記の事実関係によると、被告明治は、ベイスを介することなく、被告乙山の口利きで原告太郎らと本件変額保険契約を締結するに至ったものというべきである。)、各社から委託を受けて、各変額保険につき勧誘及び募集に該当する行為をすべき立場にあったものということができる。

したがって、前記説示に照らし、被告丙川としても、被告乙山と同様、原告太郎に対し、変額保険の仕組み等のほか前記のリスク等につき具体的に説明をすべき義務があったものというべきである(このように解すると、被告丙川は、自己の提携社以外の生保各社との関係では募取法違反の行為に出ざるを得ないことになるが、被告生保各社との委託関係に基づき、自らその立場に身を置いた以上、原告らとの関係においては右義務を免れることはできない。)。

(二) 前記認定の事実関係によると、被告丙川は、自身アリコの生命保険募集人であり、かつ、変額保険の販売資格を有し、また、被告生保各社から本件変額保険に関連するパンフレット、設計書、しおり・約款等の資料の提供を受けていたのであるから、これらを用いる等して、自らが変額保険に関する十分な説明をすることができ、かつ、その機会もあったということができる。しかるに、被告丙川は、これらを用いる等して、原告太郎に対し、変額保険に関する必要事項について直接説明することは行わず、単に、被告乙山に資料を提供して本件提案書を作成するのに協力し、また、被告生保各社及び被告銀行との連絡調整、医務検査の手配と実施、変額保険に関する各種申込書等の作成等の事務処理に従事するにとどまったものである。

(三) このような場合において、被告丙川としては、被告乙山による説明を優先させるにしても、同被告の説明内容を認識できたのであるから、これとあわせて、あるいはその不足を補うために、手持の資料等を用いて原告太郎に対して適宜説明をすべきであったことは明らかであり、被告乙山による説明が前記のとおり不十分なものであった以上、自己の負担する説明義務を免れることはできず、前記説示に照らし、被告丙川は、右義務を怠ったものというべきである。

(四) 被告丙川は、投資判断の誤りを勧誘者に転嫁することは許されないと主張するが、その前提としては、適切な説明がされていなければならないことは前示したとおりであり、その前提が満たされていないと判断される以上、右主張を採用することはできない。

また、被告丙川は、原告太郎は既に変額保険に加入することを決定していたから、原告太郎の変額保険に関する認識の誤りを質す義務はないとも主張するが、右主張は前記認定に沿わないものであることが明らかであって、採用の余地はない。

5 被告生保各社について

(一) 前記認定の事実関係によれば、被告朝日、被告ニコス、被告千代田及び被告三井(以下「当初四社」という。)は、被告丙川から、原告らが複数社の変額保険に加入することを考慮しており、ベイスとしてそのとりまとめを担当しているとのことを知らされ、そのため、各社の変額保険に関するパンフレット、設計書等の作成・送付を受けたいとの依頼を受けて、これに応じ、原告太郎に対する説明は被告丙川らにおいて担当するとのことであったため、自らは説明することなく、同被告による勧誘・募集の成果を見守り、原告らが各社と契約を締結することになったとの連絡を受けて、医務検査のための医師を派遣し、被告丙川を介して本件各変額保険にかかる申込書を受領し、これらの被告丙川の事務処理に関する手数料として相当額をベイスに支払ったものである。また、被告明治は、被告乙山から、被告住友(以下、これらを「後発二社」という。)は、被告丙川から、原告らが更に、それぞれの変額保険に加入することを考慮していること、それらの説明は同被告らにおいて行うとの連絡を受けてこれに応じ、当初四社と同様、パンフレット、設計書等を同被告らに交付し、自らは説明することを控えて、その成果を見守り、同被告らを介して本件各変額保険の申込書を受領したものである。

(二) そして、前記説示したところからすれば、被告生保各社は、各社の商品である各変額保険について成約を得るに当たっては、顧客に対し、自らが前記の趣旨に沿った説明を行うべき義務を負担すると解されるところ、当初四社は、ベイス、すなわち、被告丙川に、また、後発二社も被告乙山又は被告丙川に、それぞれその説明を委ね、各社の担当者自らにおいては、何ら実質的な説明を行うことのなかったことは前記認定のとおりである。

そうすると、被告生保各社としては、自らが本来、固有の説明義務を負担しているものである以上、他者にその説明を委ねた場合においては、当該他者による説明が十分にされたときは、結果的に右説明義務を尽くしたものと評価されるけれども、右による説明が不十分であった場合には、自らこれを補充補完しなければ、右説明義務を尽くしたことにならないことは当然といわなければならない。

そして、被告生保各社担当者のすべき説明を被告丙川に代わって行ったことになる被告乙山の説明が不十分であったこと、かつ、被告丙川がこれを補完する説明をしていないことは前記のとおりであるところ、被告生保各社の担当者もそれ以上の説明を行っていないのであるから、被告生保各社も前記説明義務を怠ったものといわざるを得ない。

(三) 被告生保各社は、前記のとおり主張し、説明義務違反を争うが、いずれも採用できない。すなわち、

(1) 原告太郎の経歴等から認められる同人の認識能力に関する判断は前記のとおりであって、原告太郎が被告乙山及び被告丙川の説明によって、変額保険及びこれを利用した相続税対策のリスクを理解していたと認めることのできないことは、既に説示したとおりである。

(2) 被告ニコス、同明治及び同千代田は、被告丙川の行為の募取法違反を争うが、同被告の行為と募取法違反との関係は先に説示したとおりであって、右の点は、民法上の不法行為責任とは直接の関連はない。

(3) 被告千代田及び同住友は、被告丙川を通じて変額保険の募集を行っていないと主張するが、被告丙川と同被告らとの関係を肯定すべきことは先に説示したとおりである。

なお、被告明治は、被告丙川との関係を争うが、被告明治は、被告丙川でなく、被告乙山との関係で説明義務違反を免れないことは前記したとおりである。

(4) 被告朝日及び同千代田は、原告らは、既に変額保険に加入することを決定した上で同被告らを選択したと主張するが、前記認定事実に沿わない主張というべきである。

(5) 被告三井の担当者が説明義務を尽くしたと認めることのできないことは、既に判断したとおりである。

(6) 原告らが当初四社との契約で十分な商品知識を得た上で後発二社と締結したものと認めることのできないことは、前記のとおりである。

(7) 原告太郎が、被告乙山及び被告丙川から十分な説明を受けた上で自ら変額保険への加入を決断したものでなく、また、被告丙川に設計書を交付したのみで説明義務を免れることはできないから、これを否定する被告住友の主張は採用できない。

6 なお、被告らは、契約者貸付を受けた際の原告太郎の対応からみて、原告太郎は、変額保険のリスクを加入当時から認識していたとの趣旨を主張する。

確かに、右時点において、原告太郎が、被告乙山、被告生保各社らに対し格別クレームをつけた形跡のないことは前記認定のとおりであるが、当時被告乙山を信頼し、同被告のアドバイスに従って行動したにすぎない原告太郎の右の態度をもって、原告太郎が加入当初から変額保険のリスクを認識していたと認めることはできないものというべきであり、かえって、原告太郎は被告乙山の説明によって、そのようなリスクはないものと認識していたと認められることは、前記認定のとおりである。

7 まとめ

以上によると、被告銀行は、原告らに対して不法行為責任を負うということはできないが、被告乙山、被告丙川及び被告生保各社は、原告らに対して前記のとおり説明義務違反があったというべきであるから、原告らに生じた後記の損害について、それぞれ不法行為に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。

七  本件融資契約及び本件変額保険契約の錯誤について

1 原告らと被告銀行との本件融資契約及び原告らと被告生保各社との本件変額保険契約は、被告銀行の菅井、被告乙山、被告丙川及び被告生保各社の担当者が、前記認定の形態でそれぞれ関与して締結に至った。

そして、前記の事実関係によると、原告ら(具体的には原告太郎)は、本件融資契約の前記契約内容及び別紙保険契約目録記載の本件変額保険契約の内容については認識の上、各契約を締結したものであって、これらの契約内容自体について錯誤のあったものでないことは明らかである。

しかしながら、原告太郎は、被告乙山ら変額保険について前記の説明義務を負担すべき者から変額保険のリスクについて十分な説明を受けることがなく、かえって、被告乙山から、本件提案書に基づいて変額保険を利用した相続税対策の有効性を強調し、九パーセント位の運用利回りは変額保険の運用として控え目の数値であり、解約返戻金の額は常に銀行からの借入金額を上回っており、銀行融資を受けて保険料を調達し、変額保険に加入して一定の相続税対策を講ずることは有効であって危険なものでないとの趣旨を内容とする説明を受け、これを信用して、本件融資契約及び本件各変額保険契約(後発二社を含む。)を締結するに至ったと認められることは、前記のとおりである。

2 そうであるとすると、原告太郎は、右の説明により、銀行融資を受けて保険料を調達し、これをもって本件変額保険に加入することは、リスクがなく、極めて有効な相続税対策となり、保険金や解約返戻金が銀行の借入元利金を下回る事態など生じることはないものと誤信して、本件融資契約を締結し、また、本件各変額保険契約に加入したものということができる。

右の誤信は、契約自体の錯誤ということはできないけれど、いわゆる動機の錯誤に当たる事由ということができ、しかも、右錯誤がなければ、通常人が本件融資契約を締結し、本件各変額保険に加入することのあり得ないことは明白というべきであるから、右錯誤は、両契約につき法律行為の要素に関するものと認めるのが相当である。

3 そして、前記の事実関係からすれば、被告銀行の菅井は、原告太郎が右のとおり誤信していることを同被告の発言等から認識していたものと推認できるから、右の動機は表示されたものということができる。

そうすると、本件融資契約については、原告らの意思表示に錯誤があったものというべきである。

4 また、本件各変額保険契約締結の経緯は、前記のとおりであって、被告生保各社の担当者は、被告乙山や被告丙川から、変額保険の顧客として原告らの紹介を受け、加入手続のみに関与したに過ぎないから、原告太郎の右誤信を直接は認識ができなかったのではないかと認定する余地はある。

しかしながら、被告生保各社の担当者が、そのなすべき説明を被告丙川(被告明治を除く各社)ないし被告乙山(被告明治)に委ねており、被告丙川ないし被告乙山としては原告太郎の右の誤信を認識していたことが推認できる前記事実関係のもとにおいては、被告生保各社との間においても右の動機は表示されていたものと評価するのが相当であるから、本件各変額保険契約についても、意思表示に錯誤があったものというべきである。

5 被告らは、原告らが本件各変額保険加入後、被告生保各社から契約者貸付を受け、また、各変額保険契約を解約したことをもって、これらは、各契約が有効なことを前提とするものであるから、原告らは、各変額保険契約を追認したことになると主張する。

しかしながら、原告らが被告生保各社から契約者貸付を受け、また変額保険契約を解約した経緯は前記認定のとおりであって、原告ら(原告太郎)は、被告乙山から変額保険の動向を見守るために、当面の措置として契約者貸付を受けるようアドバイスを受け、それに従ったものであり、また、それ以上の損害の拡大を防ぐための措置として、各変額保険契約を解約したものであって、原告ら(原告太郎)が、右契約が無効なことを知りながら、右行為に出たということはできないものというべきであるから、右行為によって、変額保険契約を追認したということはできない。

6 被告らは、原告太郎には重過失があったから、本件融資契約及び本件各変額保険契約の無効を主張することはできないと主張する。

(一) 銀行からの融資金の返済は、借主の責任であり、合意された条件下での約定元利金返済の可能性の見極めは、借主の自主的判断においてなすべき問題である。そして、本件において、被告銀行からの融資金は被告生保各社の変額保険における一時払保険料に充てることが予定されており、当該変額保険における運用益によって融資金の元利金の返済が予定されていたのであるから、このような場合において変額保険契約を締結するに当たっては、顧客自身が生保会社ないし生命保険募集人の提供する情報等を参考として、自らの責任において当該保険の仕組み、危険性の有無、程度等について判断すべきものであることは、既に指摘したとおりである。

したがって、通常の知力を有すると認められる原告太郎としては、変額保険契約の内容について、単に勧誘者の説明をそのまま受け入れるのではなく、自ら、交付された資料を熟読することはもとより、適宜質問、調査するなどして右の判断を行うことが要請されていたのである。

(二) 本件における被告乙山らによる原告太郎に対する変額保険に関する説明の経緯は前記のとおりであって、その説明が不十分であったことは既に指摘したとおりであるが、それでも、被告乙山から平成元年八月三〇日に交付された納税通信の前記問題点チェック記載は、銀行金利と変額保険の運用状況との関連性に留意する必要を示唆するものであるし、本件提案書の記載(特に九頁)も、これを熟読すれば、変額保険の危険性につき抽象的には言及しているものと理解できるものである。また、本件提案書一一頁の日本経済新聞の記事も、変額保険の危険性を示唆するものといえる。

そして、原告太郎は、被告乙山から本件提案書に基づく説明を受けた際、これらにつき質問した形跡はなく、安易に被告乙山の説明を信用したのである。

更に、被告丙川及び被告乙山の手中には、被告生保各社から届けられた変額保険に関するパンフレット、本件変額保険契約に即した内容の設計書、しおり・約款等が存在し、これらには、変額保険の仕組み・内容、リスクを認識するための基本情報が含まれていると認められることは前記のとおりであるが、原告太郎は、被告乙山から私製の本件提案書に基づく説明があったのみで満足し、被告丙川及び被告生保各社の担当者に対し、これら、いわば公的な説明資料に基づく説明を求めなかったため、変額保険の危険性を認識する機会を逸したものとみることもできる(原告太郎は、被告丙川らの手中にこれらの資料のあることを予測し得たものと推認できる。)。

(三) 以上の事実関係を総合すると、原告太郎には、本件融資契約及び本件各変額保険の締結に基づく前記の錯誤については、重大な過失があったものと認めるのが相当であるから、原告らは、被告銀行及び被告生保各社に対し、これらの無効を主張することはできないものというべきである。

八  損害について

前記の不法行為に基づいて、被告乙山、被告丙川及び被告生保各社が原告らに対し賠償すべき損害は、次のとおりである。

1 損害の内訳

(一) 未回収の支払保険料相当額

原告らは、前記被告らの違法行為により、本件各変額保険契約を締結するに至り、前記のとおり、別紙1保険契約目録各該当欄記載のとおり保険料を支払ったが、その後、被告生保各社から別紙2契約者貸付金・解約返戻金目録各該当欄記載のとおり契約者貸付を受け(契約者貸付金は、その時点における解約返戻金相当額の一定割合に当たり、原告らは、その返済をしないまま、各契約を解約したものと推認される。)、更に、各契約を解約して、同目録該当欄記載のとおり解約返戻金を受領したものである。

したがって、右支払保険料から契約者貸付金及び解約返戻金の合計額を控除した残額相当額は、本件不法行為に基づく損害というべきである(これを、被告生保ごとにまとめると、別表3損害認定一覧表1及び2X1欄記載のとおりとなる。ただし、被告三井関係[被告三井分は同表2としてまとめてある。]については、一部消滅時効が認められることは後述のとおりである。)。

(二) 銀行に対する支払利息等

(1) 原告らは、被告銀行との間で、本件融資契約を締結し、その融資金をもって、本件各変額保険の保険料を支払い、その後、前記の経緯で右融資金の元本及び利息金を全部弁済した。

本件融資契約に従って負担した利息相当額(原告太郎につき、一億八一六三万二六八九円、原告花子につき、三四五二万三五六六円)は、本件不法行為に基づく損害というべきである。

更に、融資契約に伴い負担した印紙代、抵当権設定登記費用、謄本代及び前払い利息も、すべて、右不法行為による損害に当たるものというべきであるところ、原告太郎が、当初の四社の変額保険加入のため、印紙代四〇万四〇〇〇円、登記費用七七九万八八四〇円、謄本代三八〇〇円及び前払い利息四六三万一五〇三円を支出したこと、原告花子が、同様、印紙代一〇万四〇〇〇円、登記費用一四五万五〇〇〇円及び前払い利息八四万五〇三九円を支出したことは前記のとおりである。

(2) 原告太郎及び原告甲野企業は、大和銀行との間で、前記のとおり融資契約を締結し、その融資金をもって、本件各変額保険契約の保険料を支払い、その後、前記の経緯で右融資金の元本及び利息金を全部弁済した(なお、その際、大和銀行から前記のとおり、原告太郎につき、六四万二四三五円、原告甲野企業につき、三二五万四三三五円の戻り利息の返還を受けた。)。

右融資契約に従って負担した利息相当額(原告太郎につき、四八三八万二五〇〇円、原告甲野企業につき、八〇九八万二五二四円。なお、これから前記戻り利息は控除する。)は、本件不法行為に基づく損害となる。

更に、前記のとおり、融資契約に伴い負担した費用も損害に当たるが、原告太郎が、後発二社の変額保険加入のため、印紙代一〇万四〇〇〇円を支出したこと、原告甲野企業が、本件変額保険加入のため、印紙代一〇万円を支出したことも前記のとおりである。

(3) これらの損害については、被告生保各社のいずれがどれだけ寄与したかは明確でなく、被告生保各社の共同意思のもとに損害を与えたということもできないから、被告生保各社の関係においては、それぞれが支払を受けた保険料の割合により按分した額をもって、被告生保各社の負担すべき額とするのが相当である(原告らは、前記(一)の損害額の割合で按分する旨主張するが、相当とはいえない。)。

これによると、被告生保各社の負担額は、別表3損害認定一覧表1及び2のX2欄記載のとおりとなる(なお、被告三井関係については、前記と同じである。)。

(三) 弁護士費用

本件の経緯に照らせば、本件遂行に要した弁護士費用は、本件不法行為に基づく損害と認めるのが相当である。

そして、その額は、前記(一)、(二)の損害の合算額に対し、後記の過失相殺を加えた被告らの負担すべき損害額の一割相当額(一万円未満は切り捨てる。)をもって相当と認める(別表3損害認定一覧表1及び2のX4欄記載のとおり。なお、被告三井関係については、前記と同じである。)。

2 以上の認定判断に基づいて、原告らの被った損害項目をまとめると、別表3損害認定一覧表1(一)ないし(四)及び同表2(一)及び(四)の各該当欄記載のとおりとなる。

なお、原告甲野企業が、別紙1保険契約目録(四)の(3)の被告千代田に対する本件変額保険契約上の権利を、原告太郎に譲渡したことは前記のとおりであり、これに伴い、本件においては、右契約に関する不法行為に基づく損害賠償請求債権は、原告太郎が権利者として各被告に請求していることは、原告らの主張に照らし明らかである。この事実によれば、原告甲野企業は、原告太郎に対し、右損害賠償請求債権も譲渡したものであり、本件口頭弁論期日において右譲渡の事実を被告らに通知したものと認めるのが相当である(ただし、損害額の算定に当たっては、右のとおり、融資契約に由来する損害(二)を保険料に按分して計算した関係上、右一覧表の上ではとりあえず、原告甲野企業の損害として算定し、その結果を原告太郎の損害として加算することとした。同表注2及び注6参照。)。

3 なお、被告乙山は、原告らは被告生保各社から契約者貸付を受けた時点で変額保険のリスクを理解したものであるから、右時点以降の損失についての損害賠償請求権は発生しないと主張するが、原告太郎は、被告乙山のアドバイスに従って当面の措置として契約者貸付を受けたことは前記認定のとおりであるから、原告太郎が右時点で変額保険のリスクを理解したとすることは相当でない。

4 消滅時効等について

(一) 被告らは、原告らが被告生保各社から契約者貸付を受けた時点又は本件各変額保険を解約した時点において原告らは損害を知ったものであるから、右時点から三年を経過した時点で本件損害賠償請求権は時効により消滅したと主張する。

(二) 本訴が提訴されたのが、平成六年九月三〇日であることは記録上明らかであるから、原告らが平成三年九月三〇日より前の時点で損害を知ったものとすれば、本件不法行為による損害賠償請求権は、時効により消滅したことになる。

(三) そこで検討するに、原告らが被告生保各社から契約者貸付を受けた経緯は、前記認定のとおりであって、原告太郎が、被告乙山から変額保険の運用が思わしくないので、当面の措置として契約者貸付を受け、様子を見た方が良いとのアドバイスを受け、ただそれに従った結果なのであるから、右時点において、原告らが損害を知ったと認定するのは、相当でないというべきである。

しかしながら、前記の認定からすれば、原告らが本件各変額保険契約の解約に踏み切ったのは、原告らにおいては、もはや本件各変額保険契約を維持することはできないと判断したことを意味するものと推認できるというべきであるから、原告らは、右解約の時点において、当該変額保険契約に関する損害を知ったものと認定するのが相当である。

そうすると、平成三年五月一七日に解約された別紙1保険契約目録(一)の(13)、(14)及び(三)の(4)の変額保険契約(被告三井が保険会社である。)に関する損害賠償請求権については、時効により消滅したと判断すべきであるが、その余の損害賠償請求権については、消滅時効が完成したということはできない。

したがって、被告三井の関係で生じた損害は、右の損害賠償額を控除した残額となる(これをまとめると、別表3損害認定一覧表2記載のとおりとなる。)。

5 過失相殺について

(一) 被告らは、本件において明示的には過失相殺の主張をしていないけれど、過失相殺の基礎となる前記のような事実上の主張をしている以上は、黙示的に右主張をしているものと解される。

(二) そして、原告太郎には、本件融資契約及び本件各変額保険契約の締結に当たって、錯誤との関係において重大な過失が認められることは既に説示したとおりであり、この事実関係は、不法行為責任における過失相殺の判断においても同様に妥当するものというべきである。

そうすると、右の原告太郎の過失を被告らの支払うべき損害賠償の額を定めるに当たって斟酌することとし、その割合は、前記の認定事実その他本件に顕れた一切の事情を考慮して、原告ら八割、被告ら(被告銀行を除く。)二割をもって相当と判断する(これらによると、別表3損害認定一覧表1及び2のX3欄のとおりとなる。)。

(三) そうすると、被告らの負担すべき損害額は、これに前記弁護士費用を加算した同表1及び2のX5欄のとおりとなる。

6 以上によると、本件において被告らが賠償すべき額は、次のとおりとなる。

(一) 被告乙山は、別表3損害認定一覧表1及び2記載の全損害額(X5欄)

(二) 被告丙川は、同表記載の右損害額のうち、被告明治関係を除くその他の損害額

(三) 被告生保各社は、同表記載の当該被告生保各社の関係で生じた損害額

(四) 被告相互の関係は、右金額の限度で不真正連帯債務であり、遅延損害金は、各損害から弁護士費用を控除した残額に対し、被告銀行の借入金に基づくものについては平成六年一〇月二五日、大和銀行からの借入金に基づくものについては平成五年八月三〇日(いずれも不法行為の後)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合によるものとする。

九  以上の次第で、原告らの請求は、被告乙山、被告丙川、被告生保各社に対する不法行為に基づく請求を右の限度で認容することとし、被告銀行に対する請求及びその他の被告らに対するその余の請求をいずれも理由がないものとして棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壮太 裁判官 小西義博 裁判官 栩木純一)

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